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上関の「奇跡の海」を未来へ残す

「奇跡の海」を守るためには、この地域の貴重な自然環境と生態系を守り、自然を活かした持続可能な地域経済を支える努力が必要なのです。

瀬戸内海西部に位置する山口県熊毛郡上関町。この周辺地域は、大規模開発によって失われた瀬戸内海の原風景を残す最後の場所です。世界的に希少な野生動植物や絶滅危惧種の多さから、生物多様性のホットスポットとして国内外の専門家から「奇跡の海」と評価を受けています。

例えば、この地域で発見された希少貝類「ナガシマツボ」は、発見場所である上関町内の地名がつけられた貝類であり、全世界で1個体しか確認がされていません。また、国や環境省、国際自然保護連合(IUCN)に天然記念物や絶滅危惧種として登録されているカンムリウミスズメやカラスバト、オオミズナギドリなどの海鳥に加え、世界最小のクジラであるスナメリ、動物の祖先で「生きた化石」と呼ばれるヒガシナメクジウオなど、多くの希少生物が生息しています。

この町の名が全国に知られるようになった背景には、1982年に浮上した上関原子力発電所建設計画の発表があります。この地に足を運ぶと、真っ青な海に囲まれ、穏やかな空気が流れるこの場所が原発建設予定地であること、そしてここでは30年以上も地元住民による自分たちの暮らしや自然、未来を守る攻防が繰り広げられてきたということは、想像し難いかもしれません。

【原発計画の危険にさらされる「奇跡の海」】

上関原子力発電所の建設予定地となっているのは、長島の西側先端に位置する田ノ浦湾です。1970年代には8,000人以上が暮らしていたこの上関町も、今では人口が3,000人以下にまで減少し、現在、この町には小学校と中学校が各1校ずつあるのみです。こんな田舎には未来がないと感じ、原発建設による地域振興・雇用創出を望む地元住民がいる一方で、田ノ浦湾や周辺地域の生態系を守り、原発に頼らない生活を自ら創り出していこうとする住民は、互いを「推進派」「反対派」と呼び合い、町は分断していきました。原発建設計画が発表されて以来、電力会社、地元住民、自然保護団体、上関町、山口県、経済産業省、地元の漁業協同組合、さらには裁判所も巻き込む目まぐるしい攻防がありました。

1998年から電力会社による原発建設予定地の用地買収が始まり、電力会社が環境影響調査書を国に提出し、地元のいくつかの漁業協同組合は漁業補償契約に調印し、地元漁師にも補償金が支払われました。反対派の漁協は漁業補償契約の無効を求め裁判を起こし、補償の受忍義務について裁判が続きました。そんな中、2001年には当時の山口県知事が「厳しい条件付き」で、建設計画同意の意見を国に提出。2005年からは、電力会社が原子炉設置許可申請のため、田浦湾の陸域・海域のボーリング調査を開始したかと思えば、調査の濁水が海へ垂れ流しになっているということが分かり、調査が中断されます。その後、2008年には電力会社が山口県に公有水面埋め立て免許願書を提出し、県はそれを許可、2009年には反対派の声を無視し、電力会社が埋め立て工事の開始を発表し、原子炉設置許可申請を経済産業省に提出。しかし、2010年には地質調査が不十分だとして、国が電力会社に再調査を要請、その後2011年にいよいよ工事が着工されるというその時、福島第一原発事故が起こりました。それ以来、震災後に施工された原子炉設置のための新規制基準もあり、現在原発建設のための工事は一時中断されています。

【大事な時は、いつも自然が助けてくれてた】

そんな上関で1999年からこの地域の貴重な自然環境と生態系を守り、未来の子どもたちに上関の自然を残すために活動を続けているのが「上関の自然を守る会」です。

原発建設が発表され、埋め立て工事による多数の希少動植物の生息地消滅、生態系への悪影響が危惧されていた中、1999に電力会社が実施した環境影響調査のやり方に疑問を抱いたことをきっかけに、また電力会社が発表した環境影響調査書に、保全の対象になるべきこの地で生息が確認されていたスナメリやハヤブサについて記載がなかったことに市民が声を上げ、上関の自然を守る会の前身である「長島の自然を守る会」が発足されました。生態系の解明のためには素人では分からないことも多いからこそ、日本生態学会、日本ベントス学会、日本鳥学会などの研究者・専門家と共同で独自調査を行い、その調査結果を公開、提出することで、原発建設のための環境アセスメントのやり直しや環境保全対策の確立を事業者や行政に要望してきました。

原発が建設されることになれば、稚魚や魚の卵、プランクトンを殺してしまう次亜塩素酸ソーダという薬品が含まれた海水温より7℃も高い温排水が毎秒190トンも海に流され、海の生態系は壊されてしまう懸念があると専門家から指摘されています。

田ノ浦湾の埋め立て工事着工が目前に迫った2008年5月、上関の自然を守る会は広島県西部で世界で5,000羽しかいないと言われているカンムリウミスズメの研究をしている専門家から、上関にもカンムリウミスズメがいるかもしれないという情報を得ました。そこで、調査のため船を出したところ、田ノ浦湾沖でカンムリウミスズメの生息を確認します。この発見により、電力会社は自主的に環境影響調査をせざるを得なくなり、埋め立て工事が延期になりました。「上関の自然を守る会」代表の高島美登里氏は「工事が始まりそうな大事な時に、いつも自然が助けてくれてきた」と語ります。調査をすればするほど、この地域がいかに貴重な場所であるかが分かってきました。

「それまでは、海が綺麗だとか、スナメリが見れるだとか、その程度の知識しかなかった。この自然の価値がそんなにすごいということが分かった時、原発問題に関わらず、この自然を100年後の未来に残さなきゃいけないと思ったんよね。」

広島県出身の高島氏は、山口県防府市で仕事をしながら環境保全調査に携わり始めましたが、2009年に仕事を早期退職し、上関に移り住んできました。

「悔しかったんよね。こんな場所で暮らしていけると思うのかって地元の漁師さんに言われて。だからこの町で、原発に頼らないでも暮らしていけることを証明したいんよ。」

【「奇跡の海」を未来へ残すために】

「原発に頼らない自立したまちづくりの一番効率的な方法は、今ある自然を残すこと。自然があれば、人が来てくれる。そのために、自然を守るためには、まずは相手を知ることから。」

相手とは、この地域の「自然」です。2011年以降も、上関の自然を守る会は、国内外の様々な分野の研究者や学生、市民、地元漁業従事者と、年間100回を超える調査を行い、さらなる生態系の解明を目指しています。きちんと調査をして、調査で分かった結果から、保全対策を講じる、そして自然を活かしたまちづくりにも貢献したいと高島氏は語ります。また、この地域の自然に触れてもらうために、スナメリウォッチングやカンムリウミスズメ・シンポジウム、祝島でのビワ狩り、大潮の晩に陸から海へおりてくるアカテガニの出産を見守る観察会、海底で揺れるスギモクを見ながら透き通る海でのシュノーケリングの体験イベントなどが定期的に開催されています。

そして今、上関ではこの「奇跡の海」を未来に残すべく、新たは動きが始まっています。それが、上関の豊かな生態系を守るためのユネスコの未来遺産登録です。これは日本ユネスコ協会連盟が始めた「100年後の子どもたちに長い歴史と伝統のもとで豊かに培われてきた地域の文化・自然遺産を伝えるための運動」で、この未来遺産に登録することで、この自然の素晴らしさをより多くの人に知ってもらいたいと、高島氏は語ります。

「『奇跡の海』を守るためには、自然を活かした持続可能な地域経済を支える努力が必要なんです。」

そのために、2017年2月、上関の自然を守る会は地元住民と連携して、「上関ネイチャープロジェクト」を発足させ、自然の美しさと豊かさに育まれた生き物や人々の触れ合いの場となることを目指しています。今日もまた、瀬戸内海再生の希望の種である「奇跡の海」、そこで暮らすスナメリやカンムリウミスズメを一目見たい人々が、全国から足を運んでいるかもしれません。そんな「奇跡の海」が、この先もずっと未来へ残ることを願って。

上関の自然を守る会の最新情報はこちらのウェブサイトからご覧いただけます。

Photo credit: 上関の自然を守る会

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