FEATURED

難民キャンプに種をまく

「難民」の存在は、第一次世界大戦後、ロシア革命やトルコ帝国の崩壊などといった情勢の不安定さから、国外に逃れた人々によって台頭し、以後、紛争や戦争、飢餓などの政治的、および社会的な背景によって日常生活が困難になった人々による大移動が、いわゆる「難民問題」として国際社会の注目を集めるようになりました。

今日では、2010年にチュニジアで起きた民主化運動から始まった北アフリカおよび中東のアラブ諸国の「アラブの春」や、イスラム国によるテロリズム、シリア内戦によって住み慣れた土地を離れなければいけなくなってしまった難民が数多くおり、そのほかにも何らかな理由によって、約2,250万人という歴史上最多数にのぼる多くの人々が難民となり、いつ故郷に帰れるのか先行きの見えない日々を暮らしています。

そんな人々が難民生活の中で少しでも「普通の暮らし」を垣間見る方法はあるのでしょうか?この度英Lush Timesの編集者Katie Dancey-Downは、難民キャンプでマイクロガーデニングのプロジェクトを行なっている2つの団体へのインタビューを通して、プロジェクトを通して得た様々な効果についてまとめました。

【イラク・ドミズ難民キャンプにおけるThe Lemon Tree Trustの活動】

イラク北部にあるドミズ難民キャンプでは、The Lemon Tree Trustという中東地域の難民キャンプの緑化計画を推める団体がそこに住む難民たちとともに活発に活動しています。この難民キャンプは現在は26,500人を超える、故郷から逃れてきた多く難民の「家」として機能しています。

一般的に難民キャンプは、本来難民たちの一時的な住居として機能するものですが、不安定な情勢が長引くような紛争地帯からきた人たちにとって、この「一時的」という言葉はあまり現実的ではなく、終わりの見えない暗闇の中を歩くように日々を過ごしています。事実、このキャンプに一つ目のテントが張られたのは2012年のことですが、絶え間無く続く中東地域の紛争の結果、現在ではマンハッタンのおよそ1.5倍のサイズにまで成長してしまいました。

このような状況から、こちらの難民キャンプでは難民に用意されている住居が、キャンバス地の簡易的なテントから煉瓦造りのものに変化し、また長期的な滞在者が増えた結果、様々なマイクロビジネスが活発に行われるようになりました。

The Lemon Tree Trustもまた、そのような長期滞在者に向けてガーデニング用具やノウハウを提供することによって、キャンプ内の食料自給やコミュニティ作りをサポートしています。ガーデニングを通して難民たちを支援をしています。そしてキャンプの至る所では、住民やボランティアにより草花などの自然を感じるコミュニティスペースもでき始めています。

シリア難民であるアヴィーン・イスマリもまた、この団体からサポートを受けた難民の一人です。もともとは住居の前で行っていたガーデニングを通して、家族の安否に対する不安な心のバランスをとったり、隣人である同じシリア難民の女性の心のケアを行っていましたが、のちにThe Lemon Tree Trustと知り合い、彼らのもとで団体と難民の間をとりもつファシリテーターとして働き始めました。

この活動を通して、彼女は今まで知り合うことのなかったシリア人以外の様々なバックグラウンドの難民たちと知り合い、そこにコミュニティが生まれました。そしてこの新しいコミュニティによってオーガニックガーデンが作られ、新鮮な野菜や果物を育てるビニールハウスや菜園、子供たちが遊ぶことのできるスペースが設けられました。そしてThe Lemon Tree Trustはここで取れる農作物をキャンプ内で流通させるマイクロビジネスを稼働し、住民達に雇用を生み出しました。

このような難民キャンプにおけるマイクロガーデニングには、食料供給やコミュニティビルディング、雇用創出の他にも、ベネフィットがあります。それは、花を育てることで空間を明るくし、野菜を育てることで人々が生きる目的を見出し、木を植えることで各家庭のプライバシーや防音、砂漠の砂からの被害を守る自然の壁ができることです。

そして難民キャンプに滞在する人の多くは、母国で、移動の先々で、そして新たな土地での生活に自身を順応させる日々の中で、数々のトラウマになるような経験をしていますが、ガーデニングを通して自然に触れ合うことが精神的なケアにつながっていると考えられています。

The Lemon Tree Trustのプロジェクトディレクターであるキャリー・パーキンスはこのプロジェクトに対して、「キャンプに住む難民自らが食料を作り出すことはもちろん、難民キャンプという社会問題や、自分たちの暮らしを本来あるべき姿・場所に戻したい願う難民のキャンプでの暮らしを少しでも良くすることが目的です。ガーデニングは自主性を生み出し、自分たちが住んでいる周辺環境を整える始めの第一歩になります。ガーデニングを通して、少しでもキャンプの暮らしにゆとりと豊かさを生み出すことができればと願っています。」と説明しています。

このプロジェクトは、多くの人が難民になる前に日常的に行っていたであろうガーデニングを難民キャンプという場所でサポートすることで、キャンプ内での生活に気持ちのゆとりを持ってもらう狙いがあります。

キャリーは、「人々が日常を過ごすこ上でコミュニティづくりが一番重要であり、コミュニティさえあれば人々が集まり始めます。ガーデニングを通して人々が集まる場所が出来上がることがこのプロジェクトにおいて重要なポイントなのです。」と教えてくれました。

このプロジェクトが始まった当初、ドミズ難民キャンプでは日陰など人々が休息できるようなスペースや、共に日常をシェアするアクティビティも必要とされていて、ガーデニングをすることで二つのことが同時に解決されるのではとキャリーは考えていました。

事実、道具や種、作物を育てる方法はThe Lemon Tree Trustが提供しますが、一方で、実際に農作物を育て、コミュニティを作り上げていく過程は全てキャンプに住む難民が自発的に行っているそうです。今ではこのプロジェクトは難民が運営に関わり、さらにいうと就労の機会さえ設けている大きな組織に成長しました。

そして現在、The Lemon Tree Trustの活動はこの難民キャンプのみならず中東地域における他の難民キャンプにまで広がっています。

現在では、ラッシュとイラクの非政府組織であるMercy Handsによるパートナーシップにより、「Crisis Response Garden Kits(緊急時におけるガーデニングキット)」を各地の難民キャンプに送付する活動を行っています。

キットには、種とガーデニング用具が入っている家庭用ガーデニングキットと、コミュニティガーデンに必要な材料や道具が一式が含まれているコミュニティ用ガーデニングキットの2種類があり、これらは、正規雇用されたドミズキャンプの難民が製作に関わっています。また、ドミズキャンプで使われなくなったキャンパス地のテントも他のキャンプで必要な場所があれば期限なしに貸し出され、そして余ったものはキットを入れるバッグに生まれ変わるのです。もちろん難民たちの手によって。

母国から移動を余儀なくされた人たちにとって、ガーデニングは必要なものではないかもしれません。しかしながら、The Lemon Tree Trustは、各地のキャンプにおいて、コミュニティ形成の段階で人々がガーデニングを始めることの大切さに気づき、その活動の支援をすることで、難民キャンプに滞在する人たちが長い間忘れていた、人として生きる喜びを見出す手助けをしているのです。

【レバノン・ベッカー高原における持続可能な農業の支援】

一方レバノンでは、シリア難民たちが土地に植物を植えることが禁止されています。そんな中、難民たちの日々の食料は国連WFPから支給される食料配給券により賄われていますが、この配給券の金額は多くの家族にとって十分な額ではなく、新鮮な野菜は手の届かないような高級食材になってしましました。

そして配給権で購入できる範囲の食材のみに頼る生活の結果として、現在レバノンでは栄養失調になってしまうシリア難民が増えています。

レバノンで持続可能な農業を推進する団体SOILS Permaculture Association Lebanonは国連WFPから、シリア難民たちが栄養バランスが整った食事を行うために出来る解決方法について助言を求められ、パレットやジュートで作った袋や小さなタンクをプランターとして使う、直接土地を耕さないマイクロガーデニング を思いつき、2016年にSOILSの管理が行き届くくらいの小規模なサイズである8つの難民キャンプと、そこに滞在するシリア人難民120人を選び、6カ月間の支援を実行しました。

プロジェクトが始まった初期の段階とラマダンが被った結果、土を運ぶなど体力のいる作業が困難になってしまったり、不注意からの現場の火事や、不天候など、各キャンプ内でSOILSが当初想定していなかった物事が数多く発生し、プロジェクトが成功するかどうか、常に不安と直面しながら活動が進行していましたが、最終的には地道な努力が身を結び、プロジェクト開始後2ヶ月になると、各キャンプでは野菜の収穫が始まりました。

栄養価の高いチャードという野菜や、オクラ、ほうれん草など国連WFPからリクエストがあった野菜のほか、チリペッパーやアルメニア原産のキュウリ、トマトなど、各キャンプで住民が選んだ野菜が収穫され、トマトやナスが20キロも収穫できたキャンプさえもありました。

驚くべきごとに、これらの野菜は全てたった3、4粒の種から農薬を使わない自然農法で育てられ、結果として収穫できるくらいまで成長し、最終的には最初の目的であった難民の栄養状況を豊かにすることに成功したのです。

このプロジェクトのコーディネーターであるアマニ・ダガーによると、プロジェクトに参加した人々、特に女性と子どもたちは、自分たちの力を合わせて畑から作物ができたことで、やる気に満ち溢れ、次第に目に輝きを取り戻していったと振り返ります。

キャンプ内の子ども達は、畑に対して終始一貫意欲的に関わり、畑の管理をきっちりと行ってくれたそうです。

人権擁護団体であるHuman Rights Watchは、レバノンに滞在するシリア難民の子供達ども半数以上が学校に行くことができないまま成長してしまうことを報告していますが、今回のプロジェクトでは、キャンプ内で、畑の世話や水やコンポスト、種の収穫・選定法などのワークショップに子ども達を参加させることで、将来彼らが生きていくための実践的な学びを提供することができたと報告しています。

当然ながら、このマイクロガーデニングのプロジェクトはポジティブな意見だけではなく、一時的な住居に自然を持ち込むことに対する様々な意見があり、プロジェクト参加率もキャンプや家庭ごとに多少のバラツキがあったそうです。

ガーデニングを行うことに寛容なキャンプでは、新鮮な野菜の確保以外にも、人々のメンタル面でも様々な利益がありました。

また、乾燥地帯のキャンプでは、多くの人が花が成長し野菜を収穫できるという状況に感動していたそうです。

そして多くのキャンプでは共に野菜を育てることで連帯感が生まれコミュニティ形成に繋がり、自然栽培を学び、野菜を育てることが、難民キャンプの過酷な暮らしを忘れることができるつかの間の平穏な時間作りにつながりました。

国連WFPからされたこのプロジェクトの資金援助は、6カ月という期間で終了してしまいましたが、Bouzourna Jouzournaという他の団体がSOILSの活動を引き継ぎ、プロジェクト続行を希望したコミュニティやキャンプの支援を今もなお行っています。

そして持続可能な農業の普及を進めるSOILSの活動は現在ラッシュの支援を受け、レバノン内に広がり数多くのプロジェクトを実行、成功させています。

【難民キャンプを見直す】

難民キャンプのような一時的な住居に自然を持ち込むということは、万人から受け入れるような革新的なアイデアではありません。先に述べたようにSOILSの活動も難民コミュニティ内で反抗的な意見もありました。

また、The Lemon Tree Trustでも難民キャンプでの緑化計画について地域の当局に相談した際に、最初は良い反応が帰ってきたわけではなかったそうです。キャリーは何度も説得に出向き、環境面での効果や、日陰を作ること、トラウマと戦う人たちの精神的サポート、コミュニティの連帯など、キャンプ内の緑化から即時に得られる効果を説明し、さらにキャンプ内で出た排水の再利用や雇用の創出など多岐にわたる話を強く主張し続け、最終的に当局の理解を得ることができたそうです。

最後に、今回説明した2つの難民キャンプにおける緑化プロジェクトの事例は、共通して1つだけ唯一逃れることのできない大きな問題を抱えています。これは世界中全ての難民キャンプという場において言えることなのですが、キャリーの言葉を借りるとすると、「難民キャンプが一時的な住居にしかすぎないこと。」ガーデニングを通して得られる効果によって難民キャンプに滞在する人たちは、その場の心の安定をもたらすことができるかもしれませんが、しかしながら最終的な目標、祖国に帰ることや永住の地を見つけることは、まだまだ程遠く先行きが見えない状況が続きます。

Photos from top: Domiz garden; Plant containers in Lebanon; Domiz garden. Courtesy of SOILS and Lemon Tree Trust.

Lemon Tree Trust - Domiz Camp garden
SOILS plant containers
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