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神奈川の地産電気から始まる地域ムーブメント

神奈川県にあるラッシュの製造拠点、通称「キッチン」で使っている電気は、神奈川県内でつくられた再生可能エネルギーを優先して販売する湘南電力株式会社(以下、湘南電力)から供給されています。小売電気事業者である湘南電力が目指しているのは、エネルギーの地産地消を通して地域を良くすること。そんな湘南電力取締役副社長の渡部健氏に電力会社と「地域」の繋がりについて話を伺いました。

 

LUSH:今日はどうぞよろしくお願いします。早速なのですが、湘南電力が設立された背景を聞かせてください。

渡部:湘南電力株式会社は、2014年9月に小売電気事業の立ち上げを支援している株式会社株式会社エナリスと神奈川県を拠点にするサッカーチーム、湘南ベルマーレが共同で設立した小売電気事業者です。2016年4月に電力全面自由化が始まることを受け、神奈川県内で電気をつくり、地域でエネルギーを消費する「エネルギーの地産地消」を通じて神奈川県内の経済活性化を実現することを目指しています。Jリーグの概念として、地域密着型、地域に根ざした組織でいよう、という考えが前からありますが、Jリーグ各クラブが大企業のスポンサーが多い中で、湘南ベルマーレは正に地域密着型、地域に根ざしたクラブなので、こういう思いがある組織が各地域と一緒に、地域のために電力事業をすると面白いのではないかという考えから、湘南電力をつくろうという話になりました。当時は、今ほど地方創生が盛り上がってはいませんでしたが、先駆け的な形で始めたのが、「エネルギーの地産地消」と「地域貢献」という二つの大きなテーマです。

 

LUSH:パワーシフト・キャンペーンによって「パワーシフトな電力会社」にも選ばれている湘南電力ですが、どのような電気を売っているのですか?

渡部:2017年7月現在、湘南電力の電源構成としては、日本卸電力取引所から購入している割合が多くなっています。2015年に小売り事業を始めた時は、神奈川県内で発電した再生可能エネルギー、これを“地産電気”と呼んでいますが、これが30%程でした。大変ありがたいことに、お客様の数が非常に増えており、地産電源の発電量は2015年度には約78万kWhだったのが、2017年には1,045万kWhまで増えました。ただ、割合で見ると2017年の地産電源の割合は、17%となっており、再エネの割合をもっと増やしたいなと思っています。

 

LUSH:どうして電気の「地産地消」が大切なのでしょうか?

渡部:再生可能エネルギーを売るという切り口もあるかもしれないですが、ただ電気を売るだけではダメだと思います。地域密着じゃないと、共感されないと思うんです。地域が活性化して、豊かになって、人が集まってきて、というのがその地域にとって一番良い形だと思います。それがないと、ただ安いところから電気を買おう、となってしまいます。マスでマーケティングすれば価格勝負になりますが、湘南電力は電気事業でビジネスをするのではなく、電気事業を通して地域に戻ってきたお金を、またその地域に再投資して、その地域を活性化させるというのがコンセプトです。湘南電力は、湘南地域にムーブメントを起こしたいんです。

 

LUSH:湘南電力さんの面白いところって、カスタマーが選べる「3つの地域貢献プラン」だと思います。

渡部:湘南電力にお申し込みいただける個人・法人様の対象エリアは神奈川全域です。地域ごとに活性化のフォーカスが違うからこそ、私たちから電気を購入してくださるお客様が選べる3つの地域貢献プランを用意しています。一つ目が「地域活性化応援プラン」、二つ目が「ライフスタイル応援プラン」、三つ目が「湘南ベルマーレ応援プラン」です。具体的には、地域活性化応援プランでは、鎌倉で子どもの次世代教育をやっていきたいと思っています。詰め込み型ではなく、自分で課題を見つけて、その解決方法を考える「課題解決型人材の育成」をテーマに、蔵を田舎から移設してきたファブラボと呼ばれる教室で、ロボット工学やプログラミング、など21世紀型の教育プログラムに携わっていきます。小田原と大井町での農業活性化の活動もあります。クラウドファンディングに近いかもれしれないですね。平塚のここに木を植えたいとか、鎌倉の歴史をもっと知ってもらいたいとか、藤沢だったらまた違うネタがあって、地域ごとに共感していただく方のプランは変わると思います。

 

LUSH:また出ました、「共感」という言葉。

渡部:電気を使っていない人はいないので、電気代は誰しもが払うもの。どうせ払うなら、そしてそれを選択できるのであれば、ここに払いたい。そんな気持ちがあったらいいじゃないかと思います。ふるさと納税に近いですよね。

 

LUSH:この3つの応援プランは、どうやって作っているのでしょうか?

渡部:面白そうな人がいないかな、と探し歩いています。空き家問題を解決したい人に会ったり、それぞれの地域で社会課題に取り組んでいる人、それをテーマに地域で動いている人って意外といるんですよね。今、「ローカル」が注目されてるじゃないですか。世界の課題、日本の課題、そして地域の課題って、実はシンプルな縮図だったりするんですよね。いきなりグローバル規模な課題の解決に取り組むのは難しいかもしれないですが、まずは地域で初めてみる。地域の課題が一つ解決できると、それが色々な場面に応用できると思うんです。それが湘南電力の最終的な狙いです。

 

LUSH:渡部さんは元々地域活性化、地域に根ざした活動や仕事をされていたのですか?

渡部:全然(笑)私は元々、電気の仕事を専門としてきました。1999年から電力自由化について研究をしていて、2004年から実業的に電気事業に携わり始めました。ですから酸いも甘いも、この分野の編成を見てきて、その間自分の中でも考えは変わっていきましたが、今全面自由化になって、固定価格制度買取制度(FIT)では表現できなかった再生可能エネルギーの可能性が可視化されてきて、その先は何なんだろうということを考えながら、実践に移しています。

 

LUSH:FITでは表現できないってどういうことですか…?

渡部:FITはどちらかというと、土地があって、資金があって、発電をして、つくった電気を売電して、それが儲かった、というスキームですよね。国の施策としては、それが増えていけばよかったのですが、本当の目的は、それが普及することで再生可能エネルギーをつくるコストが下がることです。再エネはつくってしまえば、後はコストがかかりません。1kWhの発電量は太陽があればタダです。再エネはコストが高いという議論もありますが、これは設備コストは高いかもしれないけど、つくってしまえば一番安い電気です。そうなると、電気って自分でつくって、自分で使う自己消費の効率が一番良い。そうすると、電力会社から電気を買わないで、自分でつくって使えばいいじゃん、というのが本質だと思います。FITは良いきっかけだと思いますが、ゴールではない。これって、電話の進化と似た話だと思います。昔は黒電話があって、電話事業も民営化されて、民間企業間で競争が起こり始め、価格が下がっていきました。その頃は一人一台電話を持つ時代が来るなんて誰も考えもしなかったですよね。多分、電気も自分でつくって、自分で使うになる時代が来る。その時代が電話事業でいうスマホ時代に値するくらいの進化なのかなと思います。事業者側から見ると、戦い方が違うんですよね。巨大資本に対して電気を安くつくる。要は安い競争力のある発電所があれば、勝っていける。でも、それとは違う勝負の仕掛け方があると思います。再生可能エネルギーはモノが違う。燃料費がかからないからです。原価費用はゼロなんです。これが、再生可能エネルギーの本質だと思います。

 

LUSH:消費者側から見て価格が安くなった方が良いのかもしれないのですが、電気をつくる側にとっては、コストの下げ合いをし続けると、それはビジネスとして持続可能でなくなってしまうのではないのでしょうか?

渡部:資本主義の社会では、限界費用を極力下げて、競争し、それに勝っていくことが根本にあります。そうすると勝者と敗者が出る二極化が起きます。僕は資本主義のパラドックスだと思っているのですが、競争すればするほど限界費用がゼロまで行く、そうすると競争できなくなる。そうすると資本主義が成り立たなくなります。それでいうと、再生可能エネルギーは費用がゼロなので、そこに競争原理は起こらないんですよね。モノ作りにおいても、AIやテクノロジーの発展が進めば、最終的に限界費用がゼロになっていく。そうすると最終的には人間が働かなくなる。そこまで行くのは相当先だと思いますが、エネルギーって、特に太陽光ってそういうものなのかなと思うんです。第一次産業革命、第二次産業革命が起こって、今“第四次”って言われていますが、産業革命が起こる時って、いつもエネルギーと共に進化してきてるんですよね。まず、石炭で蒸気機関車ができて、油が見つかって内燃機関ができると車が普及して、再生可能エネルギーができると電気自動車が普及し始めて。ここからは自動運転ですかね。産業革命の流れからいって、再生可能エネルギーが大きな変化を生み出すと思います。

 

LUSH:エネルギーが私たちの生活を進化させていく。その進化によって私たち人間は、どこまで行くのでしょうか?

渡部:自動運転は来るでしょうね。再生可能エネルギーが車にも入って行くんじゃないでしょうか。再エネで車を充電して、燃料費ゼロ円で走る。そういうので配達も自動運転で、みたいなきっかけが再エネの普及で起こりうるのではないかと思います。環境に優しいね、だけに終わるのではなく、それを使うことで産業自体が変わって行くということが再エネの普及に大切だと思います。

 

LUSH:それってつまり、人間にとってエネルギーとはどんな存在なのでしょうか?

渡部:何なんですかね(笑)生活はだいぶ変わりますよね。ライフスタイルが大きく変容する、働き方も変わるでしょうね。その一つ一つを探り続けて行くでしょうし、地域の課題もその一つだと思います。それを解決しながら、生活が変わって行く。エネルギーの将来性は、エネルギーだけで終わらないことは過去の産業革命を見れば明らかです。そう考えると、エネルギーって他の産業、人間の生活に大きな影響をもたらす相棒じゃないでしょうか。それから、エネルギーは地域課題解決のツールです。湘南電力という事業は、電力事業で儲ける事業ではなくて、地域を良くしていく事業体で、電力事業がその道具としてマッチしているのではないかと思います。今言っていることが成り立つと、湘南電力は潰れてしまいますよね(笑)そうしたら違うビジネスモデルに変わって行くかもしれませんね。

 

LUSH:相棒ですか。それでも電気って目に見えないから、分かりにくい相棒ではないですか?

渡部:でも電気を見せても、しょうがないですよね(笑)電気が電気でいるうちは、あまり面白いくない。キロワットアワーも難しい。電気を可視化させても面白くない。それを知りたいとい人もそんなに多くないでしょう。円換算されると、「なるほど、こういうことか」となる。だったら、違う価値に転換された時に、共感する人が増えれば、価値変換してあげよう。そうすれば、ピンと来ると思います。価値を変えてあげるのがキーかもしれません。再エネがもっと普及していくために、ビジネスと成り立たせるということが前提にあります。100出したお金が200にならなくても良い。101になれば良いと思います。1の付加価値でも生むということがサステナブル。持続可能だということは価値が回ることだと思います。お金じゃなくてもいいと思うんです、価値が回れば。紙幣じゃなくても、ビットコインでもいい。価値は人それぞれ。それで良いんです。

 

LUSH:そうすると、消費者側が自分で自分の価値観を信じて選択して良いということですね。

渡部:我々は“消費者”ではなく、“prosumer”という言葉を使います。”producer(生産者)”と”consumer(消費者)”で“prosumer”、生産型消費者、賢い消費者とも呼ばれますね。僕はそれがプロだと思います。プロは自分で選べると思います。そういう人たちが増えると、自分で選べる人たち、自立型人材が最もっと増えると思います。

 

LUSH:Prosumer、初めて聞きました。今日は、再エネの話を聞こうと思っていたのに、人としてどうあるべきなのかという話まで発展するとは思ってもいませんでした。最後に、そんな湘南電力の長期的なビジョン、次なるチャレンジを聞かせてもらえませんか?

渡部:地域に電力事業がいっぱいできればいい。電力小売事業だけを考えると、電力事業をやるには一定のコストがかかります。継続性という観点で言うと、お金を回るようにするには固定費用を超える収入がないといけないので、小さい村で電気の小売り事業をするのはやっぱり難しいと思います。だったら発電で活性化して行く。それを都市部に売る、ある種の輸出事業ですよね。そういう地域の活性化の方法はあると思います。東京は自立してないと思うんです。金で解決する社会というか(笑)地域から野菜来なかったら、野菜も食べることができません。先日、米作りやってきました。素足で田んぼに入って田植えをしてきました。そこで作ったおにぎりを食べて、地産地消を感じてきました。一次産業も大事な地産地消の一つで、地域の大事なものの一つだと思います。顔が見える関係ですね。今、大井町にある酒蔵で使う酒米を小田原で作っているのですが、この酒米作りの応援も始めました。箱根の旅館で買えるお酒なのですが、もともと兵庫のお米を使っていて、今は地産地消の日本酒造りにも関わり始めました。

 

LUSH:もうここまでくると電気事業会社じゃないですね。

渡部:はい、最初に言った通り地域を良くする会社です。得意なのが電気なだけ、ということです(笑)

 

Photo credit: Shonan Power, (合) 小田原かなごてファーム 

湘南電力 ベルマーレ平塚
湘南電力 小田原メガソーラー
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