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Tell Them - 私たちはこの場所を去りたくない

2014年9月、1人の日系マーシャル人の女性が国連気候変動サミットで生後6か月の娘のために書いた詩を披露し、世界のリーダーから称賛を受けました。その女性は、マーシャル諸島共和国生まれ、日本人の曽祖父を持つキャシー・ジェトニル=キジナーです。

マーシャル諸島共和国(以下、マーシャル諸島)は、5つの独立した島と29の環礁からなる人口約73,000人の小さな国です。(陸地面積は日本で2番目に大きな湖、霞ヶ浦とほぼ同じ大きさ)首都マジュロのあるマジュロ環礁の島幅は数百メートルしかなく、歩いて数分ほどで島を横断できてしまう場所もあります。第二次世界大戦の終わりまで日本が25年間委任統治したこともあり、今でも島では日本語由来の言葉が使われています。1986年にアメリカから独立したマーシャル諸島は、1940年代後半から1950年代にかけて、米国による67回もの核実験が行われた場所でもあります。

そんなマーシャル諸島の平均海抜は2m。2100年までに平均気温が最大4.8℃上昇すると言われている中、これは何を意味するのでしょうか。気候変動は、今人類が直面する最大の課題といっても過言ではありません。広大な海に囲まれたこの国では、地球の平均気温が2℃も上昇すれば海面は上昇し、陸と海抜が同じ高さになり、先進国が経済発展を進めていた裏側で、マーシャル諸島は国家水没の危機に直面しています。

人類の存続をかけた気候変動という戦いの中で、二酸化炭素の排出量を劇的に減らし、最も被害を被る人々をサポートする重要性を世界中のリーダーに向けて詩という方法で訴えかけたキャシー。それから3年経った今、キャシーはどこで何をしているのか。2017年6月、来日していたキャシーに話を聞くことができました。

キャシーは、マーシャル諸島で生まれ、6歳でハワイに移り、高校を卒業するまでハワイで育ちます。その後、カリフォルニアの大学へ進学しました。ハワイに住んでいた頃に詩を書き始めた彼女にとって、詩を書くということは、初めは自分の周りの世界を理解するためでしかありませんでした。「詩を書くことは、いつどこで、何がきっかけで始まってもいい」とキャシーは言います。

大学卒業後、18年という時を経てマーシャル諸島に戻り、家族や親戚、自分の文化やルーツと再会した時、キャシーは改めて海の大きさを感じ、初めて気候変動という問題のスケールの大きさに直面します。その時初めて、気候変動の脅威を理解し、自分たちの脆弱さを嫌という程思い知らされました。「マーシャル諸島に戻るまでは、気候変動という問題が自分ごと化できていなかった」とキャシーは語ります。

「国土のほとんとが海抜2mほどの環礁のため、海面上昇に対してとても脆弱。満潮やキングタイド(最大級の大潮)の度に、波が防波堤を越えて、私たちの家を襲います。大規模な洪水はここ数年で4回は起きたでしょう。多くの年配の方と話をしましたが、この異常気象や海の変化は、ここ最近起こり始めたことだそうです。洪水がある度、家屋は破壊され、そこに住む家族は避難を余儀なくされ、塩水により農作物は被害を受けます。昨年は、ここ何年かで最悪の干ばつに襲われました。マーシャル諸島は裕福な国家ではありません。このような自然災害が起きれば、他の先進国の住民が受けるより大きな被害を被ります。洪水が起きる度に気付かされることは、こういった異常気象は私たちの生活を困難にさせるだけでなく、いつかこの島自体が海に沈んでしまうという不吉な予兆だということです。私たちマーシャル人のアイデンティティとルーツは、この島が全てです。その島を失うということは、私たちにとって壊滅的なことなのです。」

それからキャシーは、この気候変動の脅威に対する恐怖をもとに、詩に書き始めます。

「世の中に溢れていたマーシャル諸島のストーリーの描写方法はあまり好きではありませんでした。その多くは、島で暮らす私たちができることは何もなく、島を去るしかないというような事ばかりが書かれていました。だから、私は、最初の詩”Tell Them”をYouTubeで公開しました。」

"Tell Them"は、マーシャル人としての彼女が、マーシャル諸島以外に暮らす人に向けて、マーシャル人は世界で一番腕の良い航海士の子孫だということ、島には一本しか道路が走っていないこと、女性たちは夜通し美しい声でハーモニーを奏でていることなど、島で暮らす人々のストーリーや島がどれだけ美しいかを伝えています。そして、この詩はこんなフレーズで終わります。

Tell them about water 
How we have seen it rising
flooding across our cemeteries
Gushing over sea walls
and crushing against our homes
Tell them what it’s like to see the entire ocean level with the land.
Tell them we are afraid.
Tell them we don’t know of the politics
or the science
but we see what’s in our backyard
Tell them some of us are old fishermen
who believe that the God made us a promise.
Tell them some of us
are a little bit more skeptical
But most importantly
Tell them we don’t want to leave.
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海のことを伝えてください 
海面がどれほど上昇し、私たちの墓地を水に沈めているかということを 
防波堤を越え、家を押しつぶしているかということを
伝えてください 海面が陸と同じ高さになる姿を見るとは、どういうことなのかを
伝えてください 我々は怯えているということを
伝えてください 私たちは政治も科学も分からなくても、自分たちの裏庭で起きていることは理解できるということを
伝えてください 私たちの中には神様との約束を信じている年配の漁師もいれば、神様について懐疑的な人もいるということを
でも何よりも伝えてください 
私たちはこの場所を去りたくないということを

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マーシャル諸島に戻ったキャシーは気候変動の問題に対して声を上げる活動家として活動をを始めた他に、もう一つ始めたことがあります。それが、NPOジョージクム(JO-JIKUM)の立ち上げです。

「私の母親は、私がハワイ出身、アメリカ出身ではないことをいつも話してくれました。母は、多くのマーシャル人は、私のように海外で教育を受ける機会がないこと、だからこそ教育の価値、その恩恵を母国に持ち帰り、自分のコミュニティに還元することの大切さも伝え続けてくれました。マーシャル諸島に帰るときは、そんなことを考えていました。」

キャシーにとって、マーシャル諸島に帰ってきた時に一番ショックだったことは、ゴミが町中に散らかっていたことと気候変動の脅威でした。その後別の仕事を始めましたが、自分のコミュニティのためにもっとできることがあるはずだといつも感じていたそうです。

「マーシャル諸島ではない場所で暮らしていれば、この問題についてそこまで考えなくてもよかったかもしれませんが、島に帰ってきた時、想像できないほど、気候変動問題は私たちの目の前にまで迫っていました。そこで、何かアクションを起こしたいと感じ、気候変動問題に関心のあった従姉妹たちとジョージクムというNPO団体を立ち上げました。」

ジョージクムとは、マーシャル語で“あなたの家”という意味であり、マーシャル語で“もっとグリーンなマーシャル諸島のユース”を意味するフレーズの頭文字を並べた言葉です。キャシーが若者のための団体を立ち上げた理由も、マーシャル諸島に暮らす若者には限られたリソースや機会しか与えられず、学校外で子どもたちへのケアがされる場所がなかったためだと言います。マーシャル諸島を拠点にしているNPOジョージクムのビジョンは、太平洋諸島に暮らす次世代の若者をエンパワーメントすることです。

キャシーを気候変動の世界へ呼び込んだのが詩であり、これが気候変動問題との戦いに自分が一番貢献出来る手段ということに彼女は気付きました。そんなキャシーの仕事や詩を書くことにも最近変化が生まれてきました。

「この1年の間に、詩のパフォーマンスや気候変動についての登壇機会をいただきながら、詩のワークショップを開催することが増えました。ワークショップや登壇を行いながら、私はそこに詩を書くこと、NPOジョージクムとの関係性を見出そうとしていました。そこで気付いたことは、私は参加者に詩を通して自身のパーソナルストーリーに出会って欲しいということでした。自身の人生という旅の中で、それぞれが暮らす場所に存在する様々な問題に気付き、そのローカルレベルの問題がグローバルレベルでどのような相互関係があるか、どんな繋がりがあるかを見つけることができるか、私はいつの間にかそんなことを試みていたみたいです。そこには、パーソナルストーリーを発掘し、ローカルレベルでの問題に気付き、グローバルレベルの問題につなげるという3つのプロセスがあり、それはまさに私自身が詩を書くときに使うプロセスでした。詩を書くということは、私の礎であり、時に私をリフレッシュさせ、私という人間の本質的な部分を集約させ、表現してくれます。私のワークショップを通して、参加者の皆さんにも自身の礎となるものを見つけてもらえれば嬉しいですね。」

最後に、この世界で何か一つ変えられることがあるとするなら、何を変えたいかという質問をキャシーに投げかけてみると、「難しい質問を最後に持って来ましたね」と笑いながら、こう答えてくれました。

「たくさんあって、一つに絞ることは難しいですが、その質問を聞いてまず頭に思い浮かんだことは、多くの人の無関心。多くの人が自分の周りのコミュニティやローカルレベルで被害を受け得る問題に対して、無関心でいることは難しいことではありません。多くの人は問題に圧倒され、問題の解決策を見つけたり、その解決策に取り組むことをしたがりません。もっと多くの人が私たちの周りで起きている問題に興味を示し、問題と関わってほしいと願います。そうすれば、より早く、もっと簡単に様々な問題が解決へ向けたアクションを取りやすくなると思うからです。」

気候変動は、マーシャル諸島などの小さな島国だけでなく、この地球全体を脅かしている今まさに起きている問題です。キャシーを始め、一人の人が、自らの故郷やアイデンティを守るため、また子どもやその先の世代に自分たちの文化やルーツを残すため、先進国と言われながらも気候変動問題に対しては、消極的だと世界から言われる日本に暮らす私たちは、一人の人として何ができるのか。それは、彼女の声に耳を傾けることから始まるのではないでしょうか。

<プロフィール>
キャシー・ジェニトル=キジナー
マーシャル諸島共和国生まれ、ハワイ育ち。現在マーシャル諸島大学の講師として働く側、本業を詩人とし、天性の言葉力を駆使し、情熱的でパワフルなポエトリーリーディングやスピーチを通して、世界に気候変動に対する対策の緊急性を訴える気候変動活動家。学生時代にアメリカ本土での社会課題に関する啓蒙活動にインスパイアされ、詩人としての活動を開始。ハワイ大学の太平洋島嶼国研究学部で修士課程を修了した後、マーシャル諸島を水没から守るべく、現在はNGO JO-JIKUM(NGOジョージクム)を立ち上げ、気候変動の影響で待ったなしの危機に直面するマーシャル諸島の若者たちを、 途方に暮れた「犠牲者」から未来を変える「変革者」として成長させる活動に注力しています。
Website https://www.kathyjetnilkijiner.com/

取材協力: 一般社団法人アース・カンパニー https://www.earthcompany.info/

Kathy Marshal Islands
Kathy Marshal Islands JO-JIKUM
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