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「国境の島」対馬にたどり着く国境なき海ごみ(後編)

年間予算30億円規模の国の海洋漂着物処理事業補助金のうち、その1割に当たる約3億円の交付を受けている長崎県対馬市。Lush Times 日本版のエディターが海ごみを追って、「国境の島」と呼ばれる対馬へ向かってみると、この海ごみ問題は誰が被害者で誰が加害者なのか、わからなくなってしまった。

「国境の島」対馬にたどり着く国境なき海ごみ:前編はこちら

【人口3万人の島に年間40万人が落としていくもの?】

 10年ほど前から人口3万人の対馬の景観が変わり始めた。海ごみだけが理由ではない。10年ほど前、対馬釜山間の定期航路が開設されたことをきっかけに、また釜山の経済成長が後押しをし、気軽に行ける海外旅行先として、自然がほとんどない釜山から自然豊かな対馬に足を運ぶ韓国からの観光客が急増した。街中でハングルの文字を目にすることも理解できるし、意識してみると街中に大型観光バスがかなり多く走っている。定期航路を運行する会社は4社にまで増えた。今では、年間40万人の韓国人が対馬にやってくる。来訪者は増えたが、それに比例するように韓国からの資本が島内に増えたという。「島に遊びに来てくれるのは嬉しいことです。ただ、韓国企業による観光バスやホテルの運営が増え、そうすると対馬にはお金が落ちていかない。対馬に落ちていくのはごみばかり、と考える地元の人はとても多い」と対馬市環境政策課の阿比留孝仁さんは話す。

 また、国境を越えるとごみに対する考え方にも違いがありそうだ。

 「以前、釜山に視察に行ってみたら、ごみに関する文化の違いを目の当たりにしたんです。釜山では街の中でポイ捨てが行われていて、朝になると行政がそれを全部拾ってきれいにしてくれていました。釜山の街中にはごみ箱が置かれていないんです。だから、住民はごみは捨てていいものなんだと思ってしまうのかもしれない。そういう文化だと海にごみが出てしまうのかな、と考えてしまいました」。

 それでも、自分にとって当たり前だったものが、よその目からは違って見えるということはある。これだけの観光客が韓国から来ることで阿比留さんは、何もない離島だと思っていた対馬にはかけがえのない美しい自然があることに気づかされた。そしてこのきれいな海を残していきたいと強く思ったという。

 

【対馬は被害者であり、加害者である」】

 あれだけの日本語表記ではない漂着物を見て、誰かに悪口を言いたくなったことはないのかと阿比留さんに聞いてみた。

 「正直この仕事をするまでは、対馬に住む自分も被害者意識が強かったんです。この課に配属されて、机上だけでは分からないと思い、2年間かけて海ごみを回収する場所に全部行ってみました。現状を見て、地元の人と話をして、どういうところが大変か、何に困っているのかを肌で感じるようにしました。船のプロペラに流れて来たネットが絡まる。マグロを養殖している生簀に流木やプラスチックごみが当たると網が破れて、マグロが逃げてしまう。漁業従事者も困っていることがよくわかりました」。

 阿比留さんは2015年から環境政策課で海ごみ対策の仕事をしているが、知れば知るほどこの問題は世界規模で考えないといけない問題だということに気付かされた。

 「マイクロプラスチックの問題も多く報道されるようになりましたが、海に出たプラスチックはぐるぐる地球上の海洋を回っていて、誰が捨てたごみと言い切れない。世界規模で考えないといけない問題だと思いました。対馬は加害者であり、被害者でもあると気づきました。対馬は小さな島ですが、日本の中では一番海ごみ問題に向き合っている場所だと自負しています。その中で対馬の自分たちが被害者ぶっていてはいけない。発信していかないといけない。自分たちも襟を正す。自分たちもきちんとしていかなきゃダメだ、それを持って周囲に協力をお願いしようと思いました」。

 それでも対馬市民もこの問題を自分ごと化し、生活の中で変化を起こすところまではまだいけていないかもしれないと阿比留さんは話す。では、何が足りていないのだろうか。

 「今、対馬の中で足りないのは、僕たち大人が消費して捨てるという意識から脱却できないことです。幼少期からの教育はとても大事です。10年経てば、その子たちが大人になって、子育てをする世代になっていく。子どもから『なんでごみ捨てるの?』と聞かれたら、大人はドキッとしますよね。同時に大人にも教育が必要だということを感じています。最近では漁協の青年部を集めて、“漂着物のトランクミュージアム®︎対馬版”を使って教育をしたりしています。小さなことからコツコツと、みんなで取り組まなければいけないんです」。

実際に対馬に漂着した海ごみを集めて作った一般社団法人 JEAN監修の「漂着物のトランクミュージアム®︎対馬版」

 

【「国境の島」対馬で国境なき海ごみの国境を越えた解決策を考える】

 前述の通り、対馬の景観は変わってきている。海岸の海藻類が枯れて消失する磯焼けを起こし、海と山しかない対馬で、海で遊ばなくなる子どもたちが増えている。この島にとって大切な海の景観の変化をこれ以上無視できない。そんな中、対馬市では2003年から日韓市民合同でビーチクリーンアップを開催している。これは対馬市、対馬の市民団体、そして釜山の学生ボランティアによる海岸清掃事業でありながら、交流事業でもある。この事業は、韓国から対馬に来ていたある国際交流員の人がきっかけだった。

写真提供:対馬市環境政策課

 「その方は韓国語教室などを通して対馬市の文化交流を担当していました。海岸に行ってみると、韓国語の空容器や韓国から流れてきたと思われる漁具などの漂着ごみを見て、韓国のものがここまで多いことにとても驚いていました。任期終了後、自分も知らなかった海ごみの漂着状況に対して、自分に何かできることはないかと考え、大学の後輩を連れて来てくれたのが始まりです」。

 対馬は朝鮮通信使の時代から韓国と交流があり、これまでも日本と韓国の橋渡しをして来た。今は海ごみの橋渡しになってしまっているかもしれないが、これまで文化の橋渡しという役割を担って来た。

 「これからも”国境の島”として異文化に触れていたいんです。朝鮮通信使がなかったら、文化やお米も日本に来てない。韓国は外国ですが、私たちにとってはとても近い場所。私たちはDNA的には向こうの方に使いのかもしれない。島で見る人も実際今では韓国の人が多いですからね(笑)。その中で今も生きている。今は、海ごみが私たちを橋渡ししてくれてしまっていますが、文化の交流をしていける場所でありたいんです」。

 海ごみの回収を続けながらも、対馬の未来を考える人たちはアイディアを出し合っている。「海ごみを一番扱っているこの島でプラスチック製品禁止条例ができたり、プラスチックフリーアイランドになる日が来たら面白いよね」と話しているのは、対馬で生まれながら一度島を出て、また島に戻って来た人たちだ。その「よそからの視点」が今、対馬に必要なのかもしれない。

 対馬から東京に戻り、この記事をまとめていたら、東京化粧品工業会を通して経済産業省から化粧品業界も海洋漂着物に関して具体的な取り組みを進めるように、と周知依頼が発信されていた。そこで、「私たちは被害者であり、加害者でもある」という阿比留さんの言葉を改めて考える。東京で暮らす筆者は自分の出す生活ごみを1週間集めてみて、生活の中からプラスチックを完全になくすことは難しいと感じながら、対馬に行く前からこの問題の加害者意識を持っていた。でも、対馬に行って、自分が被害者になり得るということに気づいた。このままでは、2050年に海の中は魚よりプラスチックごみが多くなるという予測が現実になってしまうかもしれないことを目の当たりにしたからだ。そんな日が本当に来てしまったら、私たち人間は多くのものを失い、みんなが海ごみ問題の被害者になってしまうだろう。だからこそ、今世界中で早急な決断と行動が求められている。それは、誰が被害者で、誰が加害者だということを議論している場合ではなく、みんなで取り組まなければいけない問題であり、みんなでできることからやっていくしか方法はない。そこに国境は関係ない。

 

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国際問題であるプラスチックごみによる海洋汚染。日本政府も国際社会の一員として世界の動きに追いつくため『海洋プラスチック憲章』へ署名することを求めます。

2018/9/12

Lush Times「国境の島」対馬にたどり着く国境なき海ごみ

#国境なき海ごみ

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