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トルコのバラ農園で花びらに故郷を重ねるシリア難民たち

トルコでのバラの収穫が今年も終わろうとしている。Lush Timesライターが、トルコのバラ農園でバラ摘みとして働くシリア難民たちを訪ね、そこでの生活やシリアに残してきたものについて聞いた、3つの物語。

ー いばらの道をたどるように

5月、バラの大地ともいわれるバラの一大生産地、トルコ南西部の都市、ウスパルタは、暑い朝を迎えた。私はバラ摘みの一人とともに、バラの木の裏の埃っぽい道にしゃがみ込んでいた。シリア難民の彼女は、仕事を中断して私に話をしてくれた。この記事に登場する他の人たち同様、彼女が匿名を希望したので、ここではマヤと呼ぶことにする。

 マヤがトルコに来て2年と少しになる。生計を立てるためにいくつかの農業の仕事に携わってきた。だがこの仕事が楽なものではないことは明らかだ。今はラマダンの時期で、太陽が照り付ける中、断食しながら働く彼らは水を飲むこともできない。

 「トルコでの暮らしはとても気に入っているわ。でも母と父がまだシリアにいるということを思うと心が痛む。あなたもこんな状況ならご両親が恋しくなるでしょう? 」とマヤは私に言う。

 私たちが何を話しても、マヤの意識は常に故郷のシリアに舞い戻る。彼女の人生のすべては、シリアと繋がっているのだ。

 トルコのバラ農園にいて幸せかどうか聞くと、「みんな優しいわ」と言い、少し黙った。その後に続いたのは「幸せでいる義務があるわね」という言葉だった。

 バラ摘みたちに1週間も密着すると、“幸せでいる義務”が共通したテーマとなる。トルコは住むにはいい場所だが、彼らは故郷であるシリアにいることを常に望んでいる。でもそれは、紛争や暴力がなければ、の話である。今、シリアに戻ることは現実的ではない。

「今のシリアで暮らす方法なんてない。 仕事はなく、あるのは紛争だけ。もちろん祖国のことは心から大事に思っているのだけど」と、マヤは言う。

 夫、義理の兄弟、現在13歳になる娘とともにシリアを離れたマヤ。国を離れた日の様子を教えてくれた。「頭上を銃弾が雨のように降っていました。娘は命を落としてもおかしくなかった」

 マヤが仕事の続きをしたいと言ったので、私たちは立ち上がった。彼女が柔らかいピンクのバラを摘む間、通訳を介して話し続けた。蝶やミツバチが彼女の手の周りを舞い、彼女はバッグに花をどんどん入れていく。その重さによって彼女の収入が決まり、その収入で家族を養っている。

 彼女が摘んでいるのはロサ・ダマスケナ(rosa damascena)という品種だ。シリアの都市、ダマスカスに起源を持つ品種と信じられている。この甘い香りのバラはかつてマヤと同じ道のりを旅してきた。シリアから来て、今はここトルコで可憐な花を咲かせている。シリアからやって来たマヤが、故郷シリア原産のバラを摘んでいる。シリアでヤギを育てていた土地と、ここはそう変わらない。

 マヤはこのバラ摘みの仕事のことを、前年にウスパルタで過ごしたいとこから聞いて知った。マヤと家族たちは、冗談を言い合いながらバラを摘む。その様子は和やかで温かいのだが、結局のところ、彼らは生計を立てるためにバラを摘んでいるのだ。

 マヤは、今ではバラを見ることが特別な意味を持つと言う。あたたかく微笑みながら、私に言う。

「ひとつのバラが持つ意味を、わかる人はいないわ」

 

 

ー 父親

 別のバラ摘みが、畑の裏のキャンプにあるシェルターに連れて行ってくれた。「ここは、あなたが生まれ育った場所ですか? 」と尋ねると、「いいえ、私の家はシリアにあります」と彼は言う。

 このキャンプは薪や水とともに、バラ会社のトルコ人オーナーから、そのバラ農園での就労期間中に限り支給されるものだ。テントとコンクリートの混合した住宅の側では、子どもが遊び、アラビア語で一緒におしゃべりをしている。

 サイード(仮名)が中東らしいカーペットに座るよう勧めてくれる。彼の妻がすぐにお茶を持ってきてくれた。私が質問しようと息を吸い込むまもなく、サイードは自分のことを話し始めた。

 「私たちは、ISISから逃れるためにシリアを出た」と彼が話を切り出し、通訳者が彼の言葉を訳す。続いて彼の口から出てきたのは、想像するだに恐ろしい内容だった。

 ある昼下がり、故郷であるシリアの都市ラッカで、サイードの妻と息子は薬を買いに行く途中、引きずり倒された。彼らを連れ去ろうとした男たちはISISだと名乗った。

 彼の妻と子が恐怖で震える中、「これを見ていろ」と男たちは叫んだ。

 彼らは小さい集団の方に向かって押された。18歳にも満たないような若い男のシリア軍の兵士が、彼らの前に連れてこられた。そこで彼らは無理やり見させられた。ISISの男たちが若い兵士の首を斬りおとすのを。

 そして彼らは逃げた。

 「もうこの家に一秒もいたくない。どこかに行きたい」と家に着くなり妻は言った。

 サイードがこの話をするのを、彼の家族はともに座り聞いていた。子どもたちの前でするには残酷すぎる内容だと感じるが、実際、まさにこの話の中に彼らもいたのだ。サイードは私に全てを話したがった。私にそれを他の誰かに伝えてもらいたいからだ。世界の他の場所にいる人たちにシリアの状況を理解してほしい。故郷を離れざるを得ないということが、どういうことかを知ってほしい。

 「目の前で人が首を切り落とされたとき、もうそこにとどまる理由は残されているだろうか。私たちは恐怖に苛まれ、眠ることすらできなかった。そして、そのまま国境へ向かったんだ」と彼は言った。夜の訪れとともに、命以外のすべてを捨て、一家は国境を越え、トルコに密入国した。

 今年はサイードにとって2年目のバラ摘みとなる。その前は、バラ農園から数時間の距離にあるアンタルヤで暑さにうだる温室の中で働いていた。

 「美しい自然とバラを見たとき、心が開けて、とても幸せだった。家に帰って美しい妻を見たとき、心はもっと開けたけどね。私たちは愛で結ばれて結婚したから」という彼の言葉に、子どもたちは顔を赤らめた。

 サイードが妻を愛しているのは見て取れた。彼が言うに、妻はトルコで腫瘍摘出手術を受けたそうだ。シリアでのショックが彼女を病気にしたのだという。彼が望むのは妻が再び健康になること、それだけだ。

 だがバラ摘みの2年目となる今年、サイードがストレスを抱えているのは明らかだった。より多くの難民がウスパルタに仕事を求めてきていた。今働いている彼らは皆、トルコ人と同等の賃金をもらっているが、バラの数は変わらないのに、より多くの難民が仕事を求めてこの場所に来れば、当然のことながら、彼らが集めたバラの重さで支払われる賃金が減ることになる。

 このバラ会社のオーナーであるハサンは厳しい選択を迫られている。それぞれの稼ぎが減ることを承知でより多くの難民に生活の糧を得る機会を与えるか、それとも少ない人数を雇って他の人々を断るのか。彼は畑により多くの人を受け入れることを選んだ。

 サイードはトルコが好きで、受け入れられている感じがするという。でも何よりも、彼は故郷シリアに帰りたい。

 

 

ー ペロペロキャンディーを待ちわびて

 バラ農園で、もう一つ別の仮住まい住宅、絨毯とカーテンで飾られた小部屋がつながった建物を訪問した。ダリア(仮名)が、日中はリビングルーム、夜はベッドルームとして使っている部屋へ私を招き入れた。彼女の夫と、彼のもう一人の妻はバラ畑で働いていて不在。ダリアは家に残って、まぜこぜの家族の子どもたちの面倒をみて、家事をし、食事を用意する。

 この家族にとってはバラ摘みの仕事は初めてのことだが、これまでも綿、トマト、コショウの収穫作業などに長く従事してきた。数日後、彼らはサクランボの収穫に移る。トルコに来てから5年、テントの中で寝なくていいのは、バラ農園が初めてのことだ。ダリアにとってこのことは大きな安心感をもたらすという。バラ摘みの期間中だけバラ会社からこの家が与えられる。

 毎日、子どもたちは父親の帰宅を待ちながら外で遊ぶ。ひそかに父親からの贈り物を期待している。ポテトチップスなんかだろうか。でも一番のお気に入りで彼らの顔を輝かせるのは、それぞれに1本ずつペロペロキャンディを持って帰ってくれる時。苺味だと、なお嬉しい。

 この家族はシリアでは土地を所有しており、綿と小麦を育てていた。「とても素晴らしい美しい日々だった」と、ダリアは笑顔を見せる。

 でも彼女は道ばたで複数の死体を目にした時、危険が迫っていることを察知し、家族は土地を離れることを決めた。大きな集団と一緒に、身をひそめながら夜の山道を歩き続けた。ダリアは妊娠していた。私たちの傍らに座って話を聞いているのがその時お腹にいた子どもだ。

 「もう人が殺されるのを見ることはありません」

 ダリアは、トルコでは安全に暮らせるし喜んでここに残るという。この場所を故郷のように感じている。

 でもここでの生活は一筋縄にはいかない。トルコでの社会のシステムを誰も説明してくれなかった。言葉もしゃべれない。生計を立てるため常に移動を余儀なくされ、子どもたちのために学校を見つけることも難しい。

 バラの収穫時期は終わりに近づいているが、ここで働く労働者の多くは次の雇用をオファーされる。あるものは雑草を取り除き、あるものは別の場所で果物の収穫に従事する。

 バラ会社オーナーのハサンは難民を雇う義務を負っているわけではない。むしろ、言葉や文化の壁が少ないトルコ人を雇うほうが簡単だ。彼は決して特別扱いしているわけではないと言う。「難民たちに特別なことをしようとしているのではない。彼らを他のトルコ人と同じように扱っているだけ。彼らも私たちの兄弟姉妹だから」

 トルコでは、シリア難民は労働が許可されている。だが、彼らはどこででも同じ権利を享受できているわけではなく、むしろ平等という言葉からは程遠い。私が話した人たちは皆、そのような状況下で生きるために、家族のために必死に働いている。困難な中で最善を尽くしている。そして当然のことながら、シリアがいつも彼らの心の中にはあるのだ。

 

2018/8/3

Translated by Noriko Iwamoto
Edited by Natsuko Yamashita

 

“トルコのバラ農園にいて幸せかどうか聞くと、「みんな優しいわ」と言い、少し黙った。その後に続いたのは「幸せでいる義務があるわね」という言葉だった”

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