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Field Notes: 奇跡の海 上関

エシカルバイイングチームのヘッドバイヤーであるサイモン・コンスタンティンは、2018年8月に家族で日本を訪れていた際、山口県の上関に足を運びました。ここには「奇跡の海」と呼ばれる美しい自然が広がっています。そのいっぽうで、上関はいまだに原子力発電所の建設が計画されている場所という一面もあります。サイモンは、実際に地元の人たちと触れ合ったことで一つの答えにたどり着きました。

【奇跡の海が抱える原発問題】

 山口県の上関は、東京に広がる都会の喧騒から何百マイルも離れたところにあり、どこか懐かしい自然の風景を今も残した場所です。漁船には瀬戸内海の透き通った波が打ち寄せ、海は思わず手で魚をつかんでみたくなるほど生命に満ちています。そして洞窟や入り江には、緑あふれる島々や静かな浜辺がひっそりと広がっているのです。いっぽう、上関で代々続く漁業関係者の多くは高齢者。暮らしていくうえで必要な収入源は、過疎と高齢化といった課題にも直面しています。

 美しい海を持つ上関は、以前からある脅威にさらされています。それは、過去36年間にわたって存在している原発の建設計画です。計画が進んでいた2011年時点で、予定地には工事の機材を搬入する船が接岸するための巨大なコンクリートの基盤が造られていました。ところが、東日本大震災と津波、それにともなう福島第一原発の事故により、建設技術者と政治家は中断を余儀なくされました。いまも建設計画は完全に終了しておらず、設置されたコンクリートの基盤は残ったままです。

 私は、この夏小学生の娘たちの夏休みに合わせて家族で2カ月間アジア数カ国を旅行していて、この旅の最後の訪問地が日本でした。韓国から広島空港に飛び、一泊したあと広島を経由して上関へ。広島では、原爆ドームを訪れました。原子力爆弾が600メートル上空で爆発した広島県産業奨励館は、今は骨組みだけの状態になっています。原爆は、20万人を生きたまま焼き尽くし、周辺の建物をほぼすべて倒壊させました。奇跡的に残ったドームは、原子力爆弾の怖ろしさを忘れないために今もそのままの姿で残されています。

 

美しい海は動物たちの最後の砦

 ラッシュジャパンの仲間たちとともに広島から車で3時間、私たちは上関に到着しました。多様で豊かな生命にあふれた海は、絶滅が危惧されている海洋生物が多く棲むサンクチュアリでもあります。

 晴れ晴れとした空から陽射しが降り注ぐ素晴らしい天気の下、妻のヴィッキーは娘たちを連れてシュノーケリングに行きました。私は上関自然を守る会の代表、高島美登里さんが営んでいる古民家を改装したてのゲストハウスで一息ついたのですが、ここに住んでいるのがうらやましくなるほど心地よかったです。彼女からはこの地域に生息する絶滅危惧種についての話を聞きました。高島さんによると、腹足類のナガシマツボや天然記念物のカンムリウミスズメ、ミサゴといった希少な動物が生息している瀬戸内海は、開発にともない人工的に海底が掘り下げられたり、汚染によって広域が破壊されつつあります。スナメリや、繁殖域がいまだに知られていないカンムリウミスズメなどの動物にとって、この海は最後の砦だというのに!

 上関の美しい海のすべてと引き換えに原発が建設されるなんて、許されるべきことではありません。さらに建設の許可が降りるなんて、常軌を逸したことではないでしょうか。ところがこれは、2010年に実際に起きたことです。中国電力は2010年、上関にある長島の田ノ浦湾をコンクリートで埋める工事作業を始めました。半島の丘陵を切り崩して入り江を埋め立て、そこに原発を建設しようとしたのです。

【原発計画と天秤にかけられる、かけがえのない海】

 実現には至っていない上関の原発建設計画ですが、地域コミュニティには大きな影を落としています。計画では、漁場に影響が及ぶ住民たちに対する補償金が提案されました。なかには、家族ひとりあたり5,000〜6,000万円のケースも含まれていたのです。高齢化が進み、漁業が少しずつ難しくなっていくなかで、この提案が一部の住民にとっては魅力的に映りました。こうして建設計画を支持する住民と反対し続ける住民は、小さなコミュニティのなかでばらばらになってしまったのです。

 ひとりの漁師は「はじめは電力会社からの支援金に喜んでいた」と話しました。ですが、ある時それと引き換えになるものの存在に気づいたそうです。孫が生まれた今、彼にとって真の財産は、電力会社からの補償金ではなく豊かなタイやタコをもたらしてくれる海なのだと語ってくれました。

 その日の晩、彼が上関で獲れた魚をふんだんに使った料理をごちそうしてくれました。新鮮な刺身や魚の揚げ物などがテーブルに並びます。私はベジタリアンですが、こんなにも美しい奇跡の海の漁師町で、彼らのおもてなしを断る理由などありませんでした。

 私たちが会った住民たちは、この地域を愛し、奇跡の海に誇りを持っています。そして、原発の被害に怯えて生活する未来を望んではいません。原発建設のために山が切り崩されたり、動物が生きられない海にはしたくないと考えているのです。

【住民たちが奇跡の海を愛し続けるには】

 次の日、海に出かけて諸島を巡っていると、ミサゴが隠れた止まり木から飛翔する様子を見ました。私がここまで多くのミサゴの群れを見たのは、はじめてのことです。今年、故郷であるイギリスのプールでも、ミサゴをもう一度育もうと試みていたのですが、異常な熱波によってヒナは6羽も死んでしまいました。希少な鳥類を起点とし、地域の生態系を再生させる苦労や努力がわかるからこそ、ミサゴがどれほど貴重なのかも私はよくわかっています。それほど、上関の環境は生物たちにとって非常に過ごしやすいところなのです。鳥だけでなく、一年中ずっと魚が繁殖できたり、それを漁師たちが獲ることができる場所でもあるのです。

 透明な海中を箱メガネを使ってのぞきながら、原発が必要なくなる経済活動のアイディアについて、みなで話し合っているときのことでした。バスボム商品に使えそうな海藻が私の目の前に現れたのです。ここで、原発計画の代わりにアカモクが上関の新たな一手にならないだろうか?とひらめきました。アカモクは海の環境を整える海藻として、人と自然が共生できる海づくりに一役かってくれる存在でもあります。そんな海藻がバスボムの原材料として使われるのは、まさに奇跡の海にとっても上関のコミュニティにとっても、尊重できるアイディアなのではないでしょうか。

 この後、私たちは子どもたちとシュノーケリングをして楽しみました。岩の割れ目に魚が逃げ込んだり、ウニがトゲを広げる様子、さらにはフグまで見ることができました。娘たちは生き物を見つけると、シュノーケルごしに歓声をあげていました。ここで、もう一度原発の代償になるものが何なのかを考えさせられました。奇跡の海をたたえる上関の状況は、天秤に掛けられた状態です。今も脅威が残っていることを忘れてはいけません。

 その日の遅く、上関に発つ頃には私たちはすっかり日焼けをし、受けたおもてなしに大満足していました。この地域に迫るかもしれない恐ろしい未来には不安も感じましたが、それ以上に住民たちから受けた温かみは大きなものだったのです。

 

※ 上関産のアカモクは、2018年11月22日にオープンするLUSH 原宿店限定で販売されるバスボム『ビッグ ブルー』に一部使用しています。収穫状況・時期によって、国内の他の場所で採れたアカモクを使用する場合があります。

11/20/2018

ラッシュ LUSH 上関 アカモク 原発 奇跡の海 バイヤー 海藻
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