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Gorilla Review | 『Lunar Orbit』

隠れたシネマThe Cube Microplexで、「The Orbit」のDr Alex Patersonと一緒に『Lunar Orbit』を観たときのこと。

 

 穏やかな9月にしては、暗い時雨模様の夕暮れ。ブリストルの街角を彷徨ったあと、しっとり濡れた街角にひっそり身を潜めるホールを見つけた。“The Cube Microplex is a social art experiment, existing in the form of a cinema and event venue in central Bristol, which operates as a non-profit cooperative” (ブリストルの中心部で、非営利で映画館兼イベント会場を運営する社会的アートの実験場所、The Cube Microplex) という文字と、フレンドリーそうな人たちが見えた。

 私たちがそこにへ行った理由は、音楽ジャンルのひとつであるアンビエントハウスミュージック(*1)のパイオニアと言われている、「The Orb」(ジ・オーブ)を観るため。 Alex Paterson(アレックス・パターソン)KLF (ザ・ケイエルエフ) のJimmy Cauty (ジミー・コーティ)によって1988年にイングランドで始まったエレクトロニックミュージックのグループだ。

 ダイアルアップ接続のコンピュータしかない時代に田舎町で育つと、新しい音楽に触れることはそう簡単ではなかった。町には、レコードとカセットテープを売るスーパーよりはちょっとマシな専門店がひとつあるだけ。そんな環境で、ラジオで聴いた「 Little Fluffy Clouds」の虜になったのを覚えている。これこそ、私が聴きたかった音楽だ、と思った。その後、20年の月日が流れても、あの時「The Orb」に抱いた憧れと感謝の感覚は今もそのまま残っている。 彼らが、私が歩んだ音楽の旅路に与えた影響はそれほどに大きかった。

 オープニングを飾ったのはブリストルのグループ「TR13BE collective」の『13.2』。奇妙なダブっぽい(*2)、まさに映画が始まるときのような感覚で、観衆を一気に完璧な夜へと誘うようだった。布をまとったバーには、K Foundation Burning A Million Quidが制作した、まさにその音楽にぴったりの映像を映し出されていた。

 映画へと移り変わり、Spaces Betweenが「meditative electronica」(瞑想のための電子音)というアニメーションが映し出された。明暗がはっきりしたモノトーンで描き出されたモンスターと不思議な景観のグラフィックに、催眠術をかけられているようだった。

 不気味な低音と印象的な音、叙事詩的なサウンドが、その映像を一層、未知へと向かうダークアドベンチャーのように感じさせる。そこで私が魅了されたのは、腰掛けた座席から伝わってくる残響音が胸に響いて、いつも以上に身体的な音楽体験をしたことだった。そんなことは全く予想もしていなかった。

 そして始まったドキュメンタリー映画『Lunar Orbit』の構成は、決して草分け的ではなく、昔のシーンと現在のシーン、登場する話し手がうまく編集されていた。それは「The Orb」が持つ全ての表現方法におけるクリエイティビティの“すごさ”に対する率直な洞察のようだった。すべては深く、満帆な愛しみとともに、ストーリーは共有され、おとぎ話は語られ、意見は発せられた。私がもっとも心奪われた部分は、Alex PattersonとThomas FehlmannがThomas のベルリンの家で一緒に制作活動をしている場面。彼らのリアリティを真の意味で観察して、「The Orb」の“創造”の過程の理解させてくれて、私自身のクリエイティビティの旅路の目的を悟ったような気がした。きっとこのドキュメンタリーを何度も観ることになるだろうし、その度に悦びを感じるだろうと思う。

 映画を鑑賞したあとは、Alex PattersonとJoe Muggs(The Wire / Guardian / Arts Desk などで音楽記事を担当)と、アート・テクノロジー・音楽におけるコラボレーション・向精神の探求について話し合うQ&Aコーナーがあった。

 タバコで一服したあと、AlexとJoeは、崇高なサウンドスケープ *3 としか表現しようのないサウンドを鳴らした。チルなビート、編集に使われたサンプル、編まれていく音楽が、音楽的探求への忠誠という感覚と一緒に会場を包んでいった。

 最後に私が個人的な感想をここに書き残すとしたら、こんなこんなことだろう。何をするにもユーモアを持って、楽しくやること。そうじゃないと、やる意味がないから。2018年には、レコードレーベルのワープ・レコーズ がアニバーサリーを迎えるというから、きっとまた何か起こるでしょう! Alex Pattersonが私を惹きつけるもう一つの理由は、17歳ですでにシルクスクリーンデザイナーだったことだな。

 

『Lunar Orbit』に関する詳しい情報は、予告版をチェック

 

*1 アンビエントハウスミュージック(ambient house):音楽のジャンルの一種で、踊るためのアップテンポな他のハウス音楽とは異なり、ダンスフロアの横でゆったりとした”Chill Out (チルアウト)”できるような環境音を昇華させた音楽。80年代後半から90年代初頭という短い期間に隆盛と没落をむかえる。

*2 ダブ(dub):レゲエから派生した音楽制作手法であり、音楽ジャンル。

*3 サウンドスケープ(soundscape):1960年代の終わりにカナダの作曲家マリー・シェーファーによって提唱された概念で「音風景」、「音景」などと訳される。風景には音が欠かせないという考え方で、そこからサウンドスケープデザインが生まれた。

 

English available: Gorilla Review | Lunar Orbit

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2018/7/11

翻訳・編集: Natsuko Yamashita

 

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