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日本での刺青文化のイメージに変化の時はくるのか?Tattoo Friendly運営 川崎美穂さんー前編ー

日本の公共浴場では時折「タトゥーお断り」の言葉が目に入ります。タトゥーOKな入浴施設のサイト「Tattoo Friendly」を運営している川崎美穂さんは、1999年から2013年まで『TATTOO BURST』編集長を務め、現在までタトゥーの変遷を追い続けてきました。下町の情緒が残る墨田区向島で、なかなかアップデートされない日本国内でのタトゥー認知の問題点についての話を聞きました。

タトゥーは人をつなげるメディアだ。日本国内外の刺青文化についての記事はこちら

 

【海外旅行者が受けた門前払い】

 

Tattoo Friendlyを始めたきっかけを教えてください。

 1999〜2013年まで紙媒体のタトゥー専門誌「TATTOO BURST」を手がけたあと、次はインターネットでタトゥーの情報を発信しようと、漠然と考えていました。そんなとき知人から、タトゥーOKな施設をまとめたWebサイトがあれば便利だと提案されたんです。はじめはどれくらい需要があるのか不安でした。なぜなら、私自身タトゥーがあっても、お風呂に行くのにそんなに困っていなかったんです。

 そこへ、2015年に観光庁が全国のホテルや旅館を対象に実態調査をした「タトゥーがある方に対する入浴可否のアンケート結果」を公表しました。この統計を見て、私が想像していたよりもタトゥーを拒んでいる施設が多かったことに疑問を感じ、試しに何十軒か電話をしてみたんです。そこでタトゥーを拒否している事情には、利用者からの要望のほか、観光組合のルール、市町村や警察の指導など、実にさまざまな理由があることを知りました。一方では、タトゥーはどうでもいいから、若い人や旅行者に入浴マナーを啓蒙してくれと言うところも多く。

 ちょうどその頃です、海外の友達が日本に遊びにきていて「今ホテルに着いたんだけど、どうしよう…入浴断られた、悲しい…」というメッセージが届きました。慌ててホテルの住所を聞き、近くにある日帰りで利用できるタトゥーOKの温泉を調べたんです。結果、彼らは温泉に入ることができたんですが、海外から来た人が現地に行ってから入浴を拒否されるのは非常にリスクが高いと実感しました。仕事の休暇をとり、渡航費をかけて、日本まで温泉旅行に来たのに、肝心の温泉に入れないって、そりゃショックですよね。

 

ー言語の壁は国内にいるとなかなか気づけない点ですね。

 日本人なら宿を予約する前に、貸切風呂があるかホームページをチェックしたり、電話で事前に確認することができます。それで私は困ってなかったんですよね。ところが外国人旅行者の場合、宿側のスタッフも日本語しか話せないため、確かめようがない。だから扉の目の前で「ダメ」と断られてしまうんです。まだインバウンドに対応しきれていないことは仕方ないのですが、現状の課題がよりはっきりと見えたことでTattoo Friendlyの役割や方向性が明確になりました。

 

ーTattoo Friendlyの現在の状況をおしえてください。

 「Tattoo Friendly」をオープンしたのは2018年5月28日です。日本語と英語のバイリンガルサイトで、現在(12月時点)掲載している施設は1,000件ほど。サイトには、日帰り温泉、ホテル&旅館、銭湯、ジム、プール、海水浴場の6つのカテゴリーを設けています。

 温泉だけに限っても、日本には20,000軒以上あるといわれていて、調べていくと全国津々浦々、本当にたくさんの入浴施設があるんです。日帰り入浴施設のほか、ホテルや旅館のなかにある温泉、地域の共同浴場、さらに山や川、海のにある野湯などですね、それらに一軒一軒電話をかけて確認をしていってます。1日に何十軒も断られ続けると地味にへこみますよ(笑)。疎外感に苛まれると日常も鬱屈としてくるので、その辺は上手に気晴らしをするよう心がけています。

でもやっていて楽しいですね、自分のオタク気質な部分と相性がいいというか。温泉って知れば知るほど奥深くて。これまで海外旅行にばかり興味があった私も、国内旅行の魅力にすっかり目覚めたしね(笑)。今まで知らなかった土地の歴史や、そこに住む人たちが大切にしている自然資源に目を向ける、とてもいい機会になっています。温泉が湧く環境を守るためには、自然保護に取り組んだり、観光地として街を整備したり、本当に大変なんですね。当たり前のように入っていた温泉ですが、いまではしみじみと有り難みを実感しています。

 

【タトゥーはどうして怖そうに見える?】

 

ー温泉への入場禁止に見られるとおり、日本ではタトゥーにマイナスイメージを持たれる一面があります。これについて、どう考えていますか?

 日本には、江戸時代から続く、当時「彫りもの」と呼ばれていた独自の刺青伝統文化があります。鳶(とび)や大工、飛脚や人力車の車夫、魚屋など、「力自慢」を仕事にする町人たちに親しまれていました。ゆるやかな身分制度のあった時代、彼らにとっては「誇りの装飾」だったんです。

 新しいカルチャーが隆起するプロセスというのは、いつの時代もそうですが、支配階級や金持ちではなく、庶民から起こるものです。江戸後期に彫りものは爆発的に流行し、彫りものをした町火消は庶民のヒーローであり、町の人気者だったんですよ。

 ところが、明治になって日本が大きく西洋化するにあたり、髪型や服装など、これまでの文化や風習は大幅に規制され、鯔背(いなせ)な江戸っ子の象徴だった刺青もその対象になりました。とはいえ厳密には、黙認されながら存在し続けてきたという感じです。現に明治の頃に来日した、英国やロシアの王族は日本政府関係者の了承のもと、日本の彫師に刺青を入れてもらっています。

 この規制は、76年間ほど続いた末、戦後新たに日本国憲法が公布されるときに廃止されました。ですが日本の映画界では、戦後に〝任侠路線〟の人気に火がつき「ヤクザ映画」と呼ばれる名作が次々と上映されていきます。役者の肌に描かれた「刺青の絵」は、映画産業を潤し、役者たちもスターとしての地位を確立しました。同時に「日本式の刺青は反社会勢力のシンボル」というステレオタイプな固定観念を世間に植えつける結果にも繋がってしまいました。

 

ー日本以外の国の状況はどうなのでしょう?

 他の国でも、ギャングや囚人、バッドボーイの象徴として、また刑罰としてタトゥーが彫られていた歴史があります。タトゥーを入れたらIQが下がるなんて嫌悪していた人もいるほど、偏見も存在しました。でも他国ではすでに、それらと今流行しているタトゥーは別モノとして認識されています。

  日本と他国の大きな違いは何かというと、やはり日常生活のなかで普段タトゥーを目にする機会がないことです。見慣れないからこそ、日本ではタブーなイメージをいまだ払拭しきれないのだと思います。

 統計では、アメリカでは成人の4人に1人、イギリスは3人に1人がタトゥーをしています。日本では100人に1~2人くらいです。海外ではタトゥーを隠して日常生活をする習慣がないので、街でタトゥーを見かける機会も非常に多く、周囲も自然と見慣れています。好きか嫌いかは関係なく、どこへ行ってもタトゥーをしている人がいるので、いちいち驚いていたらキリがないのです。

 近年は日本の各テレビ局はタトゥーを映すことを自主規制しており、ミュージシャンでさえ、テレビの音楽番組に出るときはタトゥーの見えない服装をしています。その反面、犯罪者にタトゥーがあった場合には、これ見よがしに報道します。田舎へ行けば行くほど日常でタトゥーを見る機会は失われますから、メディアが作り出したタブーなイメージのままで認識されている状態が続いています。

 なにせ映画やドラマでは、刺青を入れているキャラクターは、喧嘩をしたり、人を襲ったり、殺しあうシーンにばかり登場しますからね。そうすると、自然と視聴者にも恐怖心が植えつけられてしまいます。刺青を見た多くの人が「犯罪者」「恐い」と感じるのも無理はありません。刺青を入れた主人公が、ひたむきに頑張るドラマがあったら、少しは人々の印象も和らぐのではないでしょうか(笑)。少なからず犯罪者というイメージは、だいぶ回復するかと思います。

 

【和彫は伝統的な日本文化の一つだ】

 

ー日本の若者は、タトゥー文化に少しずつ慣れていっている印象があります。これについてはどうお考えですか?

 海外旅行や海外留学の経験のある人が、ひと昔前より増加したことも関係あると思いますが、若い人は音楽やスポーツを通して海外のタトゥー事情を知っていて、身近な友達にタトゥーがあったり、タトゥーをした外国人の友達や同級生、会社の同僚もいますからね。自分がタトゥーを入れるかどうかとは別に、他人がタトゥーを入れていることに対して、過剰な干渉をしなくなっていると思います。

 2018年、サッカーのワールドカップがありましたよね。多くのサッカー選手がタトゥーを入れているのを見て、日本の高齢者も「あれ、みんな入れてるね」と世界のタトゥー人気の高さに気がついたかと思われます。ただそれは、遠い海外の文化として眺めていただけで、近年のタトゥーカルチャーへの理解に繋がったとは思えません。

 なにより今でも日本人の理解力がつまづくのは、大方「日本の伝統刺青」なんですよね。日本の刺青は、海外のタトゥーファンにとっては、日本に古くからあるトラディショナルなスタイルとして理解されていて、浮世絵などと同様に、職人の「作品」として受け入れられています。

  なかには海外からわざわざ日本刺青を求めて来日する人もいて、観光のついでではなく刺青を入れることだけを目的に長期滞在しているんですよ。では、日本に来なければ日本式の刺青をゲットすることができないのか?といえば、いまや世界各地に日本刺青を専門に手がけている彫師はたくさんいます。わざわざ愛好家が日本に来る理由は、日本の彫師の作家性が高いからなんです。いまの時代、人気彫師のInstagramのフォロワーは10万や20万人ほど普通にいますよ。

 実際のところ、タトゥーの絵柄というのは単純に好みによるもので、絵柄から属性を判断するのは非常に難しいと思います。日本の人が思う「ヤクザスタイル」の刺青をした外国人は世界中に大勢いて、彼らはヤクザに憧れているのではなく、日本の刺青が緻密でいて力強く、どことなく幻想的で妖艶な感じがするから惹かれています。なによりそれが、昔からの伝統を受け継いだ歴史あるものだということに、感動を覚えているのです。

 日本刺青はすでにタトゥーのいちジャンルとして確立されているので、シンプルに装飾技法の「Japanese Tattoo」のカテゴリーとして捉えてもらえるといいでしょう。早い話、好んで和装をしている人が世界に大勢いるということ。そういう人たちの存在も理解できれば、もう少し刺青に対する認知も広がっていくのではないでしょうか。

 

日本でのネガティブなタトゥー認知を解決するためには?後編はこちら

 

タトゥーに関するあなたの声をお聞かせください。ハッシュタグ「#タトゥーでお風呂」をつけて、TwitterやFacebook、Instagramでご意見・ご感想を教えてください。

Tattoo Friendly
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