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タトゥーを彫るということ Tattoo Friendly運営 川崎美穂さんー後編ー

日本でのタトゥーへの過剰な恐怖心やマイナスイメージは、どのようなアクションによって変わっていくのでしょうか。「Tattoo Friendly」を運営しており、長きにわたってタトゥーのあり方を見つめてきた川崎美穂さんは、メディアや人同士のコミュニケーションの断絶が最大の問題だと指摘します。

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【タトゥー認知の問題点とは?】

 

ー日本でのタトゥーの認識が変わるには、作り手側の環境も大切なのではないかと感じました。タトゥーの医師免許の必要性をめぐる裁判(*)が続いていますが、医師免許自体はタトゥーを彫ることに対するハードルを上げたり、規制を免れようとかえってアンダーグラウンド化してしまう印象を感じています。

 そもそもこの問題は、エステサロンによる、アートメイク、レーザー脱毛、ケミカルピーリングなどの健康被害が増えたことから、平成12年に警察庁が厚生労働省に「これらは医業行為に抵触するのではないか?」と質問をしているのですね。それを受け、厚生労働省は「これらは医師のもとで安全に行うべきである」と回答しています。

 要は、美容医療の範囲だということです。翌平成13年には、厚生労働省は危害発生を未然に防止するべく、このことを各都道府県へ通達として伝えました。その際、アートメイクに関して「針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為」と表現しているんです。

 この通達にある文面だけをもって拡大解釈し、彫師が突然摘発される事態に陥ったのが、大阪で行われている裁判の発端です。健康被害をだした実態もなく、被害届も出ていない、ましてや悪質な営業も行っていない彫師がなぜ?と、はなはだ疑問です。医師でなければ彫師をしてはいけない、という法律はありません。ですから当然のように、医療機関で芸術的なタトゥーを行っているところがないのです。

 危険性を指摘するのであれば、医師法で禁止するのは非現実的な対処方法でしかなく、かえって社会を混乱させることになります。たとえ彫師がアンダーグラウンド化したとしても、タトゥーをしたいお客さんはいままで通りタトゥーをしに行きますよ。それは明治以降の歴史を振り返えれば明白なことです。

 21世紀のいま求められているのは、社会から断絶するのではなく、行政と彫師がきちんと話し合い、適切な制度のもとにガイドラインを設けるなど、時代に合った対応が望まれているのではないでしょうか。

 やはり、ラグビーW杯や東京オリンピック・パラリンピック開催、2025年大阪万博を目前に、国の重要課題として観光立国を目指している今、タトゥーに対する正しい対処法をとらないと、日本社会の根強い偏見を払拭するどころか、今まで以上にさまざまな摩擦を引き起こす火種にもなりかねません。

 彫師が医師免許を求められるということは、ひいてはタトゥー文化全体の未来が閉ざされることも示唆しています。大阪でのタトゥー裁判は、いち彫師の問題ではなく、日本社会全体がタトゥーとどう向き合っていくのか?という、とても大きな意味をも含んでいるのです。

 一部にはアンダーグラウンド化した方がカッコイイと思う人もいるかもしれませんが、入れたはいいが世間の風当たりの強さにタトゥーを消したい人が増加する恐れも懸念されます。せっかく入れたタトゥーを消したくなるような自己決定権の低い社会が、いい環境だとは思えません。

 本来タトゥーは人をポジティブに勇気づける存在なのに、人生をネガティブなものに変えてしまうのであれば、なによりそれは「素晴らしいタトゥー」とは言えないのではないでしょうか。

 

【知識のアップデートが必要】

 

ータトゥーの安全性や衛生面を懸念する声については、どうお考えですか?

 プロフェッショナルな彫師であれば、当然のこととして守られている一定の世界水準があります。しかし日本の多くの人たちは、それがどの程度のレベルなのか、実情を知りません。なぜならばタトゥーの現場を実際に見たことがないからです。いままでは「知る必要のないもの」「研究の対象外」だったとしても、昨今タトゥーがここまで注目されるようになると、無視できなくなっているんだと思います。

 歴代の彫師たちはみな、各時代の社会通念に沿った方法で仕事をしていました。今やタトゥーのコミュニティは、世界中で繋がっています。最新の衛生基準や道具など、世界の彫師が技術革新を共有しながら、常に進化してるのです。

 日本国内でのタトゥーの安全性に関しては、社会全体の衛生観念の意識が低かった50年くらい前のままのイメージであったり、都市伝説のような噂まで真実のように語られていたりします。まずはそれらを放っておくのではなく、タトゥーの現場を知らない人に対し、現状を知ってもらうよう努めることが大切なのかなと。それは彫師側の環境を改善するというよりは、これまで積み重ねてきた取り組みを広く公布できる窓口がない点に問題があるのだと思います。

 現にいま『日本タトゥーイスト協会』という、彫師の業界団体が発足されようとしていますが、一人ひとりの意見では、なかなか世間に声が通らないものでも、業界全体が一丸となることで、より広く伝えられることができます。また、然るべき機関と協力し、将来的によりよい環境を持続させられる働きかけもできます。今後行政が何かしらのタトゥーに特化した立法措置を検討したときには窓口にもなるでしょう。

 彫師というのは一見強面ですが、基本的に勉強熱心で、真面目なんですよ。お客さんの要望を最大限に叶えるための努力は、絵の練習から、物語や歴史の研究にまで至ります。なにより、お客さんの健康を守ってこそ、長く仕事が続けられることも十分理解しています。だから世界中でこれほどまでにタトゥーが愛され、タトゥーアーティストがリスペクトされているのです。

 その一方で、近年はインターネットの普及により、ネット通販で安価な道具を買って、気軽に彫師をはじめられる環境に社会のシステムが変化しました。たとえ知識や技術不足のまま開業してしても、簡単にネットで宣伝も出来ちゃう時代。タトゥーに興味をもちはじめたばかりのお客さんには、プロとプロではない彫師の見分けがつきません。これは非常に危険だと思います。

 だからこそ、プロフェッショナル用の協会が求められているのであり、協会があれば一定のガイドラインを守るよう呼びかけられますし、衛生講習などを受けてもらうことも可能です。協会に所属しているかどうかを確認することで、お客さんも危険なスタジオに足を運ぶリスクが回避できるのではないでしょうか。

 

【タトゥーは何歳でも遅くない】

 

ータトゥーを入れるとMRI検査ができなくなる、という言説は確かなんでしょうか?

 わたしはなんの問題もなくMRI検査を受けましたよ。現時点でのMRIに関しては「タトゥーの色の変色、または火傷の恐れ」という、万が一のリスクに備えて同意書や承諾書にサインをする必要があります。ケガの多いスポーツ選手を例にとっても、海外ではタトゥーがあっても普通にMRI検査を受けています。アメリカでは火傷のリスクよりもMRI診断の有用性の方が高いという見解が出されています。病院になかにはトラブルを避けるために断るところもあるのかもしれませんが、基本的には受けられます。

ータトゥーにマイナスイメージがある人は、どんな思いを抱えていると考えていますか?

 タトゥーは一度入れたら取り外しの出来ないものなので、感覚として理解するのが難しく、将来的に消したくなったらどうするんだ?と、心配な気持ちになるのはわかります。

 でもね、タトゥーを入れた人に向かって「後悔するよ」「若気の至り」だと言うのは、ちょっと話が違う。他人の人生に対して余計なお節介だと言われてるうちはまだいいけれど、行き過ぎると「若気の至りだったと早く反省し、必ず後悔してほしい」という呪いの言葉とも受け取れるんですよね。SNSやネットのニュースの書き込みを読んでると、後悔するまで追い込もうとする風潮もあり、ストレス社会の危うさを感じます。

 本当に相手を慮っているのであれば、タトゥーを入れたことを後悔しない人生を歩んでほしいと願うはず。だからもし、近くにタトゥーを入れたいと言ってる人がいたら、後悔しないためにはちゃんとした彫師のところへ行くこと、単に近所のスタジオを探すのではなく、自分に合ったスタイルのタトゥーを手がけている彫師を探すことが大事だということ。

 それから、本当に今入れなくちゃダメなのか?就職して、結婚して、子供が大きくなってからでも、決して遅くはないということを伝えてあげて欲しいと思います。

 80歳でファーストタトゥーを入れた人もいるし、会社を定年退職してから入れ始める人もいます。タトゥーは決して若者の特権ではないのです。自立した大人の趣味の世界のものとして理解されていくことを願うばかりです。

ー私のタトゥーに関する認知も、今日お話を聞いたことによってかなり現代版にアップデートされた気がしています。

 よく「ここは日本なんだから、タトゥーに対する偏見は変わることなんてない」と言う人がいますが、若干内向的なところに同調圧力が強いものの、基本的に日本の社会は民主主義が機能している先進国です。社会全体は非常に衛生的で秩序も保たれています。ですから、好きか嫌いかを基準に動くのではなく、タトゥーに関しても、マナーやルールを重視する成熟した社会になることも十分可能だと思っています。

 タトゥーのことになると、人はつい感情的になりがちですが、親子でも恋人でも、友達とでも、人生観と合わせてゆっくりと語らう時間があるといいですよね。

 お互いに何を幸福だと感じるのか、どんな未来を想い描いているのか、多様性についてなど、タトゥーをきっかけにさまざまな視点で論じられるのは、とてもいいことだと思います。

 

*:タトゥーアーティストの増田太輝氏が医師免許を持たずに刺青を彫ったことに対し、医師法に反するとして有罪判決を受けた。増田氏の控訴ののち、2018年11月14日に大阪高裁にて逆転無罪となる。2018年12月時点で検察側は判決を不服とし、最高裁に上告している

 

タトゥーは人をつなげるメディアだ。日本国内外の刺青文化についての記事はこちら

 

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