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未来の海は、魚よりプラスチックごみが多くなる?

世界の海に漂うプラスチックごみの量は、「各国が積極的なリサイクル政策を導入しない限り、2050年までに海に棲む魚の量を上回る」と警鐘を鳴らす報告書が2016年1月、ダボス会議で発表されました。

これは近い将来、海に魚がいることよりもプラスチックが浮遊していることが世界では当たり前になるという、近未来映画のような話が現実として目前まで迫っていることを意味しています。私たちの子ども達は海でプラスチックとともに泳ぐことになるのでしょうか?

科学や技術の進歩により、私たちの生活は一見便利で豊かなものになりました。しかしながらこの豊かさは、利益至上主義がもたらした人間の利己的な豊かさでしかなく、結果として今日、自然の生態系や環境を脅かす大きな問題にまで成長してしまいました。20世紀初頭に、衝撃に強く、低価格で作られるプラスチックが発明され、今日、消費しない日はないのではというほど、プラスチックは私たちの生活に密着した素材として存在しています。この便利なプラスチックは、大量消費を続けている私たち人間によって毎年800万トン以上が海に廃棄されていると言われるまでになりました。これは1分毎にトラック1台分のプラスチックが海に捨てられることに相当します。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?プラスチックは、生活の利便性や衛生面を高める役割を果たす一方、「使い捨て」に貢献しています。多くの人が当たり前にコンビニやスーパーで購入しているペットボトル入り飲料を例にとると、いつでも飲み物を新鮮かつ衛生的に保つペットボトル。今でこそ分別してリサイクルに出すことが当たり前になっていますが、ここに至るまで、すでに私たち長い年(もしくは今となっても!)ポイ捨てなどの不法投棄などによって、海にたどり着き、自然分解されないまま廃棄物として浮遊し続けています。

ダボス会議でも警鐘が鳴らされたように、海を漂うプラスチックごみが引き起こす問題を食い止めるには、世界中の多くの人の努力と意識や生活スタイルの変化が必要とされています。

海洋ごみ問題について、国内外の市民団体間の情報共有を行うとともに、プラスチックごみの海洋流出や発生の抑制に繋げるため、積極的に活動を行う団体が日本国内にも存在しています。そのなかでも今回は「海の生き物をマイクロプラスチックから守ろうプロジェクト」を行った一般社団法人 JEANの小島あずさ氏に話を伺いました。

 

Q. 海洋ごみと呼ばれるマイクロプラスチックについて教えてください。

海を漂うプラスチックごみの多くは、飲料用ペットボトルや、その蓋、タバコのフィルター、食品の容器包装、花火などで、私たちの「飲料」「食品」「喫煙」「娯楽」など日常生活から起因しているゴミで、身近な街から河川を通じて海に流出します。

私たち人間が出したプラスチックごみは海洋を漂う中で劣化し破片化が進み、マイクロ以下のサイズまで小さくなっていきますが、決して消滅することは無く、自然には還りません。微細化して5mm以下のサイズになったプラスチックごみはマイクロプラスチックと呼ばれ、その表面は有害物質が付着しやすい特徴があると言われています。また、小さなサイズになることで、生物が飲み込みやすくなり、プランクトンなどと共に海洋生物の体内に取り込まれていきます。すでにクラゲやイワシの消化器官等からマイクロプラスチックが確認されています。これはやがて人体にも取り込まれ影響を及ぼすことが懸念されています。

環境省が東京海洋大学などに委託して行った日本周辺の調査の結果を、九州大学の磯辺篤彦教授が分析した結果、日本海のマイクロプラスチックの密度は、世界の他海域の「27倍」にも達することがわかりました。

 

Q. 一般社団法人JEANが行った「海の生き物をマイクロプラスチックから守ろうプロジェクト」について教えてください。

2016年10月、私たちは「第14回海ごみサミット2016三重会議」に国外から15名の専門家を講演者として招待しました。その海外ゲストと共に実施したのが「海の生き物をマイクロプラスチックから守ろうプロジェクト」です。海外からの専門家たちに、世界平均の27倍ものマイクロプラスチックがあるとされる日本海沿岸地域(京都府京丹後市久美浜町葛野浜、網野町琴引浜)を直接見てもらい、現地関係者を交えた意見交換会を行うことで、今後のマイクロプラスチックの自然環境・動植物への影響の低減促進に繋げたいと考えたからです。実施した時期が、頻繁にごみ回収が実施される海水浴シーズンの後だったことと、漂流物を運んでくる冬の季節風の到来前だったことから、大量のごみが溜まっているという状態ではありませんでしたが、一般的な清掃では回収不能なプラスチック破片や、マイクロプラスチックとみなされる微小破片が海岸に多数残存していました。

京都の葛野浜は観光シーズンになると海岸清掃が行われるのに対して、琴引浜は海岸管理を京丹後市から委託されている網野町掛津地区観光部や地元の市民団体などが日常的に清掃しています。琴引浜は「鳴き砂(または鳴り砂)の海岸」としてとても有名な海岸です。「鳴き砂」とは、人が歩いたり、砂の上を手の平などでこすると、キュッキュッと音が出る砂で、ごみはもちろん、海岸の汚染にとても敏感で、タバコの灰が落ちただけでも音が出なくなってしまうのです。この鳴き砂の海岸を保全するために、年間通じてごみ回収を行うほか、海岸全体を禁煙にしていますし、訪れた観光客には「鳴き砂が環境のバロメーターと言えるほど繊細なものであり、地域全体で守る活動をしている」などを説明しています。

今回のプロジェクトに参加した海外の専門家15名には、実際に鳴き砂をこすって聴こえる自然が生み出した音色を体験してもらいました。その一方で一見綺麗に見える海岸でマイクロプラスチックを探してもらい、どんなに綺麗にゴミ回収をしていても、微細化されたプラスチックが砂浜に紛れていることを、全員で確かめました。

また、30年に渡って琴引浜の漂着物調査を行い、集めた漂着物の展示・啓発を行っている「琴引浜ネイチャークラブハウス」を見学しました。今回は見ることができなかった、最も漂着物が多くなる冬季の海岸の写真や、実際に回収した漂着物の実物を見て、説明を伺いました。近年の琴引浜におけるマイクロプラスチックの実情から、20年前に起きたロシア船籍タンカーによる重油流出事故、そしてそのダメージから海岸環境を回復させてきた軌跡の話にも及び、日本海の環境や取り組みについてを海外からの専門家に直接聞いてもらえる機会となりました。

 

Q. 20年前に起きたロシア船籍タンカーによる重油流出事故とは?

1997年1月、ロシアタンカーのナホトカ号の事故により、大量の重油が日本海に流出し、琴引浜にも大量に漂着したのです。住民はもちろん、全国各地から駆けつけたボランティアが数か月にわたって地道な回収活動を繰り返し行い、海岸の重油を除去しました。漂着ごみが多い冬季であったため、海岸やコンクリートブロックの中などに溜まっていたプラスチックゴミも重油とともにくまなく回収され、重油回収作業が完了したときには、ゴミも一掃された美しい浜となったのです。

 

Q. プロジェクトが終わってからの反応はどうでしたか?

地元の市民団体のみなさんからは、世界各地で海洋ゴミ問題の改善のために活動している専門家たちと直接対話ができたこと、自分たちの取り組みにとても興味を持ってもらえたことで、自分たちの活動に自信が持てたとの感想を伺いました。世界各地の活動ぶりを知り、いつも清掃している地元の海岸でのマイクロプラスチックの問題についても理解を深めていただくことができ、意見交換・良い交流の場となりました。

今回参加された海外の専門家からも、「漂着物や漂着ごみの多い地域の海岸視察と思っていたが、琴引浜の美しさに驚きました。そこには地域のみなさんの毎日の活動があることを知り、感動しました。しかしそんな美しい浜にもマイクロプラスチックはあり、冬になれば大量のゴミが漂着することを知って、拾う活動だけはなく、プラスチックごみを出さないことにもっと力を入れたいと思いました。」という感想をいただきました。

 

Q. 今後の展望を是非教えてください。

海岸でのクリーンアップとゴミ調査、海洋ゴミの問題改善のための意見交換や啓発活動などを、これからも地道に続けていきます。同時に、ゴミを元から減らす・断つための発生抑制を実現する活動に力を入れていきたいと考えています。海洋ごみの問題の現状を伝えながら、一人ひとりが使い捨てをしない日々の暮らし方を提案したり、プラスチックの賢い使い方などを他団体とも協力しながら広めていきたいと思っています。

 

 

<一般社団法人 JEAN>
JEAN(Japan Enviromental Action Network)は、1990年9月に日本で初めての国際海岸クリーンアップ(ICC:International Coastal Cleanup)に参加した有志によって、様々な環境問題に対して行動する人を増やして行くことで環境保全に貢献しようというネットワーク組織として活動をスタート。2009年8月に海洋ゴミ問題解決に向けた活動の拡充・発展のために「一般社団法人 JEAN」として法人化。

http://www.jean.jp/

 

(※)ダボス会議:世界経済フォーラム(WEF)が主催する世界経済や環境問題など幅広いテーマで意見交換する年次総会

 

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