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FEATURED

SATOYAMA REGENERATION 能登の炭やき職人

2020年春、ラッシュの商品に使われる炭が、日本で初めて世界農業遺産に登録された能登半島で里山再生とまちづくりを目指す奥能登産の炭に切り替わります。

 

これは、能登半島で唯一の専業炭やきとなった大野製炭工場と里山再生の物語。

 

ラッシュのリジェネレイティブプロジェクトの軌跡

「お客様が手に取るスキンケア商品やギフト資材も、元をたどれば自然の恵み。そんな中、地球上に存在する社会的、環境的な課題は年々深刻化し、普通に買っていては持続可能な購買活動はもうできないので、サステナブルバイイングを諦めることにしました」。

 こう話すのはラッシュのクリエイティブバイヤー。そこで、未来を見据え、原材料や資材を購買することで地域社会や自然環境を再生し、元々そこにあった豊かさを取り戻せないかと考え始まったのが「リジェネレイティブバイイング」です。人間が決めた国境にとらわれずに世界中を飛び渡ることから、ブランドの信念に「Freedom of Movement(移動の自由)」を掲げるラッシュにとって象徴的な存在である渡り鳥を追い始め、その先々で原材料を探す旅が始まりました。

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 群馬県のみなかみと宮城県の南三陸で始まった人工林を間伐、皆伐しながら山や森を管理し、地域づくりに取り組むイヌワシプロジェクトや、タカの仲間・サシバの渡りのルートを追いながら、日本各地の豊かな里山から自然の恵みをいただきながら里山再生に取り組むサシバプロジェクトなど、ラッシュのリジェネレイティバイイングはこの数年でその活動地を広げてきました。プロジェクトを通して、豊かな森や里山の生態系の頂点に君臨する指標種の生き物をシンボルに日本各地を訪れ、元来そこにあった豊かさを取り戻せないかと考えながら、生物多様性の復元、地域社会や自然環境の再生に繋がる原材料を探してきました。

 自然の恵みをいただきながら、スキンケア商品やギフト商品として商品化が実現した2019年の冬、リジェネレイティブバイイングのプロジェクトパートナーである公益財団法人日本自然保護協会が次に案内してくれたのは、日本初の世界農業遺産に登録された「能登の里山里海」が広がる石川県の能登半島でした。

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能登に根付く里山里海里人の暮らし

「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」

 おとぎ話に出てくるこの一節は、古き良き日本で見られた典型的な里山での暮らしです。そんな日本の里山が世界の"SATOYAMA"として注目され始めたのは2010年。名古屋で開催された生物多様性条約第10回締結国会議で、里山が生物多様性の保全と再活性化につながる重要な役割を担うことが紹介され、里山の持続可能な利用を促進させる「SATOYAMAイニシアチブ」が提唱されました。それから生物多様性の宝庫として里山の重要性が世界的にも少しずつ認識され始めますが、実はその2年前、2008年にドイツで開催された第9回締結国会議に参加し、里山保全の取り組みについて講演を行ったのが谷本正憲石川県知事でした。

 しょう油や味噌、酒づくりなど、伝統的な発酵食品に加え、輪島塗や山中漆器の発祥地でもある石川県は、県土の6割を里山が占める自然と文化の多様性豊かな場所だと話すのは金沢大学先端科学・社会共創連携推進機構の伊藤浩二特任准教授です。

「石川県の中でも特に能登半島がある場所は、海と山の距離が非常に近い場所です。日本海側の外浦地域と富山湾側の内浦と呼ばれる地域では見える景色が違って、海の生き物の多様性も外浦と内浦では異なります。海の暮らしと山の暮らし、里山と里海両方の恵みが活かされてきたのが能登半島の魅力です」。

 これまで長い間、里山里海で暮らす里人(さとびと)が手を入れ、里山の豊かな恵みを利用することで、能登の里山でも生物多様性豊かな自然が守られてきましたが、世界で里山の重要性が注目され始められる中、日本では里山の変化が進んでいます。全国の里山同様、能登の里山でも過疎高齢化が進み、山を管理する里人の人口は減少し、里山と里人は厳しい現実に直面していると伊藤さんは話します。自然と共に生きていく知恵と技術を活かし、これからの時代どうって生物多様性の宝庫である里山を守っていけるのか。そんなことを考えていた伊藤さんは、生態系の研究者として研究を続けながら、世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」を世界に発信しながら地域の課題解決に取り組む「能登里山里海マイスター」を輩出する金沢大学の人材育成のプログラムに講師として携わり始めました。

 

アートでサイエンスな奥能登産の炭づくり

 その「能登里山里海マイスター」第1期受講生の一人が、能登半島の最北端に位置する珠洲市で1971年から炭作りをしている大野製炭工場2代目、大野長一郎さんです。生まれ育った故郷で大野さんが家業の炭やきを始めたのは1999年、22歳の時。その後、創業者であるお父さんが2003年に急逝し、それから代表として炭やき工場を経営しています。

 大野製炭工場が炭やきを始めた1970年代は燃料革命後の時代。かつては調理に暖房と生活必需品だった炭も、灯油やガス、そして電気にその役割を譲り渡し、日常の暮らしに炭が登場する場面は減り、それに伴い炭やき業者も減っていきました。また、戦後の国策であった拡大造林により、人里に近いところにあった雑木林はスギやヒノキに植え替えられてしまいました。こうして里山の活用がされなくなると雑木林の木は巨木化し、伐採・搬出にかかるコストは上がり、炭やき業者は厳しい状況に直面していきます。

 そんな中、石川県内唯一の専業炭やき工場となった大野さんは、炭やきに育てられ、自らも炭やき職人としてのアイデンティティを強く持ちながら、生まれ育った故郷の裏山でナラやクヌギの広葉樹の木を切り出し、炭やきを続けています。大野さんが手間暇かけて焼き上げる炭は切り口が美しく、火付き、火持ちが良い炭となり、茶道教室など茶道用の炭として使われています。

 大野さんは、炭やきの面白さと難しさは表裏一体だと言います。

 「面白いのは、ひと窯ひと窯結果が違うところ。それが探究心を飽きさせない。だけどそれが難しいですよね。そこに自分なりに結構プライドかけてますから。だからクレームを言われると必要以上に怒っちゃったり(笑)。昔は硬く焼いた炭が良い炭だと表現した人もいます。硬く焼いた炭はそれなりの特徴があって、火持ちはいいんだけど、火付きはよくない、ということもあったり。良い炭って、数値がこれくらいで、長さ、硬さがこれくらいの、ということではなく、使われるお客様が望まれる品質を提供することだと思います。お客様の使うシーンに合わせた使いやすい炭が良い炭だと思ってます」。

 「数字ではないと言いましたが、茶道においては精錬度(※)の数字があり、機械で測ることができます。精錬度6から8が良い炭とされていて、それは火付きや火持ちの『ちょうどよさ』というもの。香りも含まれます。いかに狙った精錬度で焼きあげられるか。窯の中の温度や木を詰める位置、木の長さを調整しています。理想の炭を綺麗にたくさん焼けるようになりたい。高確率でね」。

※ 精錬度とは炭化の度合いを示すもので木炭表面の電気抵抗を測り、0〜9度の10段階で表示したもので、木炭精煉計により測定する。

 現代では燃料としての炭の価値はないに等しいかもしれない、と大野さんは話しますが、炭の価値創造を今からどうできるか、それをビジネスとしてやっていきたいと語ります。

 「焼き方にしても人よりすごく時間をかけています。それが良いのかまでは分かんないんですけど、今は自分が実現したい炭を焼くためのその過程にいると思います」。

 

炭やきを生業に、ビジネスでSATOYAMA REGENERATIONを

 研究者の伊藤さんは里山の魅力をこう語ります。

 「里山の面白さは、常に変化しているところ。定常状態がないというのが大きな特徴ですよね。森に人が手を入れれば明るい草原的な環境が作られ、そこに住む生物の種類にも変化が見られます。こういった場所がこのまま10年、20年経てばまた森に戻っていく。それがモザイク状に広がっていくのが里山なんですね。人の手の入れ方によって、そこから手に入る自然の恵みの種類や質が変わってくるのが面白い。そうやって、昔の人が培ってきた知恵や技術で、里山が今まで受け継がれてきました。それが僕にとっては大きな魅力なんです」。

 炭やきを続ける大野さんは、炭やき職人として良い炭を焼き続けること以外に、「炭やきビレッジ」構想という夢を持っています。それは広葉樹のクヌギを使ったお茶炭の生産による持続可能な地域づくり。過疎化が進む奥能登で、1960年代には2,000人弱いた炭やき職人も2016年には25人にまで減少し、このまま何もせずにいれば産業だけでなく、まち自体がなくなってしまうことに危機感を持つ大野さんは、この地域ならではの資源を活用した産業で、人々が生活をしていける産業、そして雇用を生み出したい、と言います。

 そこで、炭やきを生業としていくためには質の高い炭ができるクヌギが8,000本必要だと分かり、2004年からクヌギの植林を始めました。クヌギは育って伐採できるようになるまで8年かかりますが、一度植えると木を切った後も切り株から新しい芽が生え、また8年待つと炭の原料が手に入るという循環サイクルがあります。必要な資源量を確保するため、相続した耕作放棄地に炭の原料となるクヌギの木を植え始め、さらにはクラウドファンディングを活用しながら土地を再整備し、植林イベントを継続的に開催。2018年までに約6,000本のクヌギを植林することができました。目標の8,000本まで、もう少しです。

 「父親が始めた炭やきという生業があったおかげて、仕事を通じた夢を持てました。夢に向かって突き進み、それを応援してもらう。その好循環が出てきてから、多幸感、充足感がある人生を送れています。だから人にも勧めるんだけども、如何せん儲けは少ないですから、中々僕もやりたい、私もやりたいという人は出てきてないんですけど。炭やきを通して、自分の存在意義を強く感じています。あなたは誰なんですか、と聞かれたら僕は炭やきをしているものです、とちゃんと言えることは今の時代、結構恵まれてるんじゃないですかね」。

 炭やきとしての夢を追い、地元・能登の未来に想いを馳せながら、今日も大野さんの窯には火が灯ります。

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大野製炭工場の炭を使った商品はこちら:
洗顔料『ブラックダイヤ』

奥能登産の菊水を使った靴用消臭剤が入ったフットケアセット『Foot Care Kit Nioi & Mukumi』 (2020年7月発売)

※洗顔料に使用している炭は、お茶炭を作る過程で崩れてしまった未利用炭です。篩にかけて、粒を細かくして商品に使用しています。

 

<手間暇かけた大野製炭工場の炭の作り方>

材料となる木を山に切りに行きます。木を倒して、長さを切り揃えます。曲がった部分や節の部分を取り除きながらできるだけ真っ直ぐに仕立てて切り揃えます。窯の中で窯の底に付いてる部分と上の部分で温度が異なり炭質が異なり、どうしても下の方は炭化が不十分になることもあるため、綺麗ないい炭になる部分を窯の地面につかせないように考えながら、あえて節のところを境に切り分けます。

8年前に自分たちで植えたクヌギ。運び出しやすいように綺麗に並んでいる。

窯に入れるときのことを考えて長さを切る。

林内作業車の荷台にワイヤーをあらかじめ引いておき、切り揃えたクヌギを積み込み、トラックが来れるところまで運び出します。ワイヤーに括られたクヌギをクレーンでトラックの荷台に積み替えて、工場に運びます。

工場に運び込んだら、太さや樹種を選別します。クヌギ以外にも里山から切り出した広葉樹を使います。太さ10cm位の木は炭にすると7cm位に縮みます。直径が3cm以下の細い木は、木を窯に詰めた後、上に乗せます。太すぎる木は割って並べます。

窯内に木を並べたら、7日間ちょろちょろ火を焚べます。吸気口と排気口を狭く絞って、窯の中の空気の対流速度を極力抑えた状態で7日間、徐々に温度を上げていきます。「7日目には僕の感覚として、窯の中の材料の外側と内側の水分量が均一になります。排気口も塞いでいるので、木から出てくる蒸気を極力逃さない。蒸気圧で窯内の圧力を高めつつ、浸透効率を高くしする。蒸気の効果で、熱は下がりやすい。なので、上と下の温度差をなくしたり、水分量を均一にするというイメージで、それだけ時間をかけています。

7日間かけて、排気口から出てくる煙の温度を60度から65度に上げ、8日目に本炊きという作業に入っていきます。薪の量を増やして、閉めていた吸気口と排気口火を解放して、熱と酸素を入れ込み、窯内の木に引火させます。窯内に火が一旦入ると、60-65度だった煙の温度が、約2時間から3時間で80度くらいまで上がります。

20分おきに排気口からの煙の温度を計測しながら、ミリ単位で排気口の弁を調整します。「20分おきの根拠はないけどやってみている」。

80度まで達したら、炭化が始まります。その時に窯内の温度は220-230度に達していると言われています。ここから2時間ほどかけて排気口を徐々に絞り、炭化速度の調整に入ります。薪を焼べるのも止め、わずかな吸気口を残し、焚き口を塞ぎ、あとは窯に任せます。窯内の炭化は、このあと6-7日間続きます。

木材は50%の炭素と50%の有機物が化合してできている物質で、木材がこの温度に晒されると、「熱分解」という現象が始まり、加熱されることで炭素以外の有機物が木という組織構造の中から気化して窯の外へ出ていきます。最初は水分が出ていき、残った炭素同士が再結合し、縮んで小さくなって形が残ります。ここでの特徴は、木が加熱されたことによって起こる熱分解という現象によって、「分解熱」と呼ばれる熱エネルギーが出てきます。この分解熱が窯内で十分な量に達すると、窯の外から薪を焚べて加熱する必要がなくなります。自分たちの分解する力でまた熱が生まれて、分解する、原子炉みたいな現象が起きます。そうすると今後は火を焚くのを止め、分解していく速度を排気量と給気量を調整するでコントロールします。そして、後は窯に任せます。

1トン位の炭ができるまで、6-7日間程ずっと、窯の中で自然に分解が行われます。吸気口はわずかに開いているので、そこから酸素が入り、分解するものがなくなっていくと、いよいよ酸化が始まり、燃えるしかなくなった炭素が燃え始めます。すると窯内の温度が300度、500度とどんどん上がり、最終的には700度、800度まで上がります。600度以上にならないと分解されないリグニンという成分があって、それがその温度になって分解されて炭素純度が8割を超える炭が出来上がります。それを温度と一緒に煙の色や煙突の内側のタールの色で判断して、吸気口を塞ぎ、排煙口も塞いで、密閉させて窒息させて消火して完成です。

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