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Soapbox: 難民を受け入れられる社会の実現を目指して

言論の自由はとても大切な権利。「Soapbox」は、社外の専門家に依頼し、見識や解説について寄稿いただく場所。 今回の執筆は、「認定NPO法人 難民支援協会」広報部コーディネーターの田中志穂氏。日本における難民の実情、これからの課題についてお伺いしました。

「自分を生かしてくれた日本で生きていきたい」

難民申請の結果を待ち5年が経つウガンダからの難民の言葉です。迫害を逃れてたどり着いた日本で直面するのは厳しい現実です。社会から孤立し、将来が見えない時間の中で、生きる希望、人としての尊厳を失ってしまう人もいます。それでも、多くの人は日本で身の危険がなく生きられること、自由があることに感謝したいと言います。

2016年、日本政府が難民と認めた人は28人。認定率は1%未満。これは世界でも類を見ない極めて少ない認定数です。例えば、2015年のシリア難民の認定率は、ドイツで99.8%、アメリカで94%、オーストラリアで90%ですが、日本では、2011年から2016年の間で69人が申請したところ、認められた人は7人に留まっています。これらの数字を見る限り、日本には難民受け入れの土壌はあまりないように見えますが、実際はどうでしょうか? ここでは、難民支援協会(JAR) の支援の現場から見える受け入れの実態と、シリア危機を受けての変化を通じて、日本での難民受け入れの可能性について考えたいと思います

JARは日本に逃れてきた難民への支援を行っている団体です。東京の四谷にある小さな事務所には、年間70カ国以上からの約700人の相談や来訪があります。JARに来るのは、難民申請者全体の約1割前後。1日15人前後、多い日で20人を超える人が訪れます。半数がエチオピア、コンゴ民主共和国などアフリカ出身者、アラブの春(※)以降はシリアなど中東からも増えました。日本での申請者全体ではアジア出身者が多いのですが、JARの現場はだいぶ様子が異なります。アフリカ出身者などは日本で頼れるコミュニティが少ないため、来日直後からJARに助けを求めてきます。知り合いもおらず、言葉もわからない、難民申請に関する情報もない。時には、数日から数週間で所持金が尽き、ホームレスに陥ってしまう人もいます

JARではシェルターの提供も行いますが、ここ4-5年は、寝袋を渡し、路上でなんとかしのいでもらうよう伝えざるを得ないこともあります。先進国日本でこんな目に遭うとは、誰一人想像していません。そんな難民たちの精神的ショックを受け止めつつ、それでも厳しい現実を受け入れてもらうほかないのが現状です。

そんな現状からすると、やはり日本で難民として受け入れられるのは難しい、日本にたどり着くというのは「ハズレくじ」と思われてしまうかもしれません。しかし、こう言う難民の方もいます。

「日本は平和で安全な国。そんな国はなかなかない」

「入国管理局は冷たいけど、日本で出会った人の多くは親切にしてくれる」

支援の現場でも、目の前で困っている人がいれば、何かしら力を貸してくれる人が大半です。そうでなければ、逆にここまで公的支援が少ない日本で生きていくことは困難でしょう。

東日本大震災があった2011年3月、シリアではアサド政権を批判した落書きを壁に書いた少年らが治安部隊に捕らえて拷問を受けるという出来事がありました。これが発端で市民によるデモが広がり、今も終わりの見えない内戦が続いています。ニュースでも取り上げられている世界的な難民危機は、私たちにとってもこれまでよりは「他人事」ではいられなくなったのではないでしょうか。

シリア危機の報道を通じて、JARには一般の人や企業からの問い合わせが増えました。

「部屋を無償で貸したい」

「雇用することで力になりたい」

実は、社会には難民受け入れのリソースが眠っているのではという感触を感じています。それらを活用する仕組みがあればもっとできることがあるはず。人の善意を集めつつ、空き家や人手不足問題など社会課題の解決の手段として難民受け入れを活用するという発想があれば、人道支援の枠に捉われない様々な受け入れの形を作っていけると、これまでの変化を受けて強く思います。

とはいっても、まだまだ日本に難民が逃れてきていることを知らない人が大半でしょう。受け入れに関する賛否ともにあってもいいでしょうし、まずは議論の場を作ることが大切だと思います。しかし、同時に、人の命を救うという難民支援に、本来、賛否はないはずで、できれば賛否の議論を1歩進めたいとも思います。簡単ではないけれども、どうしたらこの世界的危機に対応できるか、日本が今以上に難民を受け入れるとしたら、どんなやり方が可能か、一人ひとりが考え、出来ることから始められればと思います。

難民とは、紛争や人権侵害から住み慣れた故郷を追われ、逃れざるを得ない人びとのことです。難民となる前は、私たちと同じように家や仕事があり、大切な人との日常がありました。逃れた先での生活は、失った「当たり前」を取り戻すことからはじまります。ここ日本にも、そんな難民となった人びとが逃れてきています。「難民」という言葉に対して漠然とした不安に駆られる前に、難民の人たちがどういう状況に置かれて逃れてくるのかをまずはぜひ想像してみてください。

難民受け入れに限らず、異なる他者を受け入れる過程で、摩擦や衝突があるのは当たり前です。しかし、多様な人がいる方が組織として強いというのは、ラッシュのような企業がすでに証明しているのではないでしょうか。難民受け入れは社会の力になると、私たち一人ひとりが積極的に難民を歓迎する潮流を生み出していきたいと思います。

認定NPO法人 難民支援協会
広報部コーディネーター 田中志穂
www.refugee.or.jp

Photo by JAR

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※アラブの春:2010年からアラブ諸国で発生した前例にない大規模反政府デモを主とした騒乱の総称。

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