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現代を生き抜く: ニューヨークにある都会のパラダイス

最近の出来事です。とある火曜日の午後、家で一番暑い部屋の中で座りながら、前日の夜の思い出を汗とともに流している自分がいました。(月曜の夜は、コメディアンにとっての週末なのです。)前日の夜は、バス(温泉)を楽しむさまざまな職業の人々に囲まれていました。ウォール・ストリートのビジネスマンから、アッパーウェストサイドからきた70代の女性、タトゥーだらけなヒップスター2人、ハシド派ユダヤ人男性6人がいました。銀行員であってもパン職人であっても、半裸な私たちにとっては関係がなかったし、誰も気にしていませんでした。汗まみれの体、濡れた髪、この熱さを求める気持ちは、バラバラな職業である私たちでもみんな共通だったのです。

テンス・ストリートのバス(温泉)は、何年もの間、たくさんの人に親しまれ、ひとつの伝統として残っています。ティモシー・リアリーやフランク・シナトラ、ジョン・F・ケネディ・ジュニアなどをはじめとする著名人が、バス文化愛好家として知られています。最近ではコリン・ファレル、レネー・ゼルウィガー、ジェームス・フランコがふらっと立ち寄ることもあります。彼らは毛穴ケアに励みながら、安らぎの場所としてバス(温泉)を楽しんでいます。こうしてたくさんの著名人がやってきますが、このバス(温泉)は富裕層をターゲットにしているラグジュアリースパではありません。ワーキングクラスが汗をかくためにやってくる場所であり、120年もの歴史があります。家で温かい水もでず、プライベートバスルームが貴重で憧れのものだった時代に、近所のアパート住民が入浴するためにやってくる施設としてはじまりました。オールドスクールなニューヨークを感じられるこの場所は“ホンモノ”なのです。一人で考えたい時に心地よく感じる静かなひと時から、むんむんとした空気の中でベイ・リッジからブロンクスまでの各地の訛りが大声で飛び交う光景が広がる場所です。マフィオソ(マフィアの一員)と映画スターが共に会話を楽しむ場所でもあり、警察、タクシー運転手、弁護士が人であふれかえるバス(温泉)の中で、上がっていく温度を一緒に楽しむ場所でもあります。

 

以前のバス(温泉)のオーナーは、ビッグ・アル・モドリンツという男性でした。プラツァ(熱したオークの葉を束ねて身体をたたくことで、循環をよくし、鎮静作用があるとするロシアの伝統治療法)の治療をしていた時に妻と出会ったとされる彼の死後の1980年からオーナーを務めているのが、ボーリスとディビッドの2人。この頭の切れるロシア人2人が、バス(温泉)を共同経営していましたが、現在は違います。バス(温泉)のロビーに行くと、”ボーリスとディビッドのウィークパスは、別々に購入してください”と書かれている看板があります。彼らはバス施設を半分に分けて、それぞれが隔週で運営を担当しています。もしボーリスからパスを買った場合は(穴を開けてもらうスタンプカード)、ボーリスが担当する週間でしか使えません。ディビッドのパスも彼が担当する週(マグネットストライプ付きのスワイプするICカード)しか使えないのです。こんな状態でビジネスが運営できているのは、驚きでありますが、ありがたいことに彼らはこのスタイルを成功させているのです。

脳みその半分がとろけてしまうような量の汗をかきに来るこの場所。本来であれば忍耐力を試すような場所ではありませんが、実際は自分の限界を試す場として広まっています。最初のステップとして、出来るだけ自分の身体を冷やします。冷たい水風呂に飛び込み、どれだけの時間を過ごし耐え切れるのかを試すのです。そこから、次のステップのロシアン・ルーム(サウナ)へ向かいます。ここは、暗い洞窟のような空間で、一晩オーブンで熱した何万もの石が並べられ、熱い熱気が一日中続く部屋です。ラッキーな日だと、93℃にもなる温度を体感できます。確かにこのステップは過激ですが、無限に続く自分との戦いでもあります。身体を温めて、再び水風呂に飛び込む。これを繰り返し行うのです。限界がきたら、バスローブを着てスリッパを履き、タオルに包まれ休憩。さらにゆっくりしたい人は、ドライサウナか身体に優しいスチームルームでリラックスするのもいいものです。

この繰り返しのサイクルには、健康面でも効果がある例がたくさん確認されています。血行をよくし白血球生成を促すことで、免疫力を高める効果があり、身体と精神のストレスを解消(デトックスも)していくとされます。お肌への血流もよく、お肌にたまっている角質を取り除きながら、新しい皮膚の再生を手助けしていきます。見た目も、気持ちもフレッシュにしてくれます。

通りから離れたルーフデッキ(クールダウンするのにぴったりな場所)の上では、忙しいダウンタウンのマンハッタンにいるのも忘れるくらいの静かな時間を楽しむことができます。ジリジリと太陽が照りつける暑い日でも、大雪が降る日でも、ここは訪れる者にとっては“都会のパラダイス”なのです。スマホの画面すら見たくないと思うような、今の時代にはほとんど残っていない、最高にリラックスできる場所。携帯もいらない。メール対応もしなくていい。至福の時間があるだけ。

バス(温泉)での時間を後にして、夕暮れと共にまた街に繰り出せば、さまざまな意味で身体も心も軽くなったといえる体験ができます。身体がぴかぴかになり、生きている感覚をちょっとだけ取り戻す、ニューヨークの大都会にある小さな場所。本来であれば何年も前に消えてしまうような場所だけれど、ロシア人のおかげで今現在も続いています。彼らに尋ねれば「ロシアン・バスはすべてを解決する」と笑顔で答えるでしょう。

テキストと写真を提供してくれたマット・ローパーに深く感謝します。

マット・ローパーはニューヨークを拠点に活動するコメディアン。ラッシュとの関係は、2011年のラッシュフェスで参加者の前に立ったときから始まり、翌年にはコメディステージのディレクションを担当しました。世界中を旅する彼は、自身の体験や日々の考え事、探究心を文章にしてここでシェアしてくれています。

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