FEATURED

ストリートアートで社会を変える

ラッシュの本拠地、イギリスのドーセット州プール出身のアーティスト、トレバー・ラビーズ。チャリティ活動やローカルビジネスに積極的に参加し、作品は公共の場において無償で楽しまれるものであるべきだと信じている、トレバーにとってグラフィティとは何なのか。彼が愛するモーメント(瞬間)について聞いてみました。

 

 僕は、1980年代からグラフィティアートを描き続けている。港町プールで暮らす一人の少年として、アメリカから世界へ広がったグラフィティやヒップホップムーブメントにインスピレーションを受けて、何か掻き立てられるような感じがした。『Subway Art』のような本や学校の校庭での会話から、アメリカでのムーブメントについて知ったんだ。プールからロンドンまで2時間ほど電車に乗って、今となっては小さくも強固なコミュニティの間でアイコニックなイメージとなった作品の写真を撮ってまわったよ。 

 僕の人生の中にいくつかある「グラフィティでその瞬間を刻み、メッセージを吹き付けた意義深い瞬間」はというと、たぶん早くして亡くなった友人たちへのメモリアルだろう。彼らの人生へ向けた祝福と、自分が失ったものへの悲しみで満ちた作品の数々。地方新聞の訃報欄が語りつくせない彼らのアイデンティティを、遺された家族や友だちの代理として描くことができたんだ。

 そこから38年早送りする。今、君は世界中の都市や町で思いっきり空気を吸うことができる。ファストフードと重たい排ガスが複雑に混ざり合った独特のニオイを感じたら、すぐそこにスプレーペイントがあることのサイン。最近は、グラフィティとストリートアートは、僕たちの世代による現代アートのムーブメントの中で、最も意義あるものの一つと認知されている。リーが数年前にやったこととまさに同じように、スプレー缶と錆びついた電車に、個人的、政治的、時にはユーモア溢れるメッセージを表現しているんだ。僕にとって、スプレーペイントを通じてその時だけの瞬間と繋がることには、何か身近で心地よいものがある。頭の中にあること、クリエイティビティを感じること、表現することが混ざったような感じだ。

 君がロンドンの郊外にいても、ブラジルのスラムにいても、もしくはカルカッタの道ばたにいたとしても、いつだって自分を表現するための“スペース”は見つけることができて、みんなの目に映るように、君のビジョンを描き出すことはできるだろう?僕は今まで、グラフィティが様々な年代と文化背景を持つ人たちを引き込む様子を目にしてきた。選挙とか、環境問題とか、ジェントリフィケーション(低所得者層の居住地域が、再開発や文化的活動などによって活性化することで地価が高騰してしまうこと)のようなコミュニティに関わる問題を、作品を見る側に自分ごと化させ、感情に訴えかけて政治的な会話に引き込む力がある。
 グラフィティアーティストが、人生、魂、感情を込めて、まっさらな“スペース”に色をぶつける。その瞬間に新しい世界が創り出されて、足を踏み入れた人たちは、そのアートの一部となっていく。それはまた「声を拾ってくれる人が現れない限り無力」と感じている人にとっては強力なエンパワメントになる。彼らの心と創造力のうちに秘めたものを絵にぶつけ、功績として価値を与えられることを意味するのだから。

 僕は最近、イギリス国内の子どもが対象の啓蒙と資金調達を目的としたチャリテイプロジェクトに参加したんだ。僕のパートナーであるサラは、弱い立場にあり、性の搾取と虐待のリスクに晒された子どもたちを支援するプロジェクトの一員として働いていた。そのアート作品の目的は、すべての子どもたちにオンライン上で危険な大人たちに出会ってしまうリスクがあるということを、子ども、若者、その家族、子どものケアを専門的に行う人、そして地元コミュニティのみんなに、アーティスティックに伝えること。

 絵を描くのに、プールがあるドーセット州スワネージにあるスケートパークを臨む、幅15m、縦2mの壁をもらった。若い子たちにメッセージを伝えるのにはうってつけの場所だったよ。荒れ狂う嵐が5日間続いて、スワネージ海岸からから吹き付ける風と雨が特に激しい時は、車の中でじっと待たなきゃいけないほどだった。絵を描いている間、僕の絵が何を表しているのか興味を持ってくれた人たちは声をかけてくれた。そこを通るたくさんの見物人たちに、デザインの意味を説明できたことはもちろん素晴らしかったけど、何より嬉しかったのは、完成間近の晴れた金曜日のある瞬間だった。若者グループが反対側のスケートパークの高いところから、絵とそれが表すメッセージについて話す声が聞こえたんだ。それはまさに僕のアートが彼らのものになった瞬間で、アーティストである僕にとっては、彼らに何か気づきを与えるることがでますように、という思いを胸に、現場を後にできる最高の瞬間だった。

 

English available: Street Art as a tool for change

「Gorilla Arthouse 日本版」のその他のコンテンツはこちら

 

2018/7/18

翻訳・編集: Natsuko Yamashita

 

君がロンドンの郊外にいても、ブラジルのスラムにいても、もしくはカルカッタの道ばたにいたとしても、いつだって自分を表現するための“スペース”は見つけることができて、みんなの目に映るように、君のビジョンを描き出すことはできるだろう?

コメント (0)
0 件のコメント