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「国境の島」対馬にたどり着く国境なき海ごみ(前編)

年間予算30億円規模の国の海洋漂着物処理事業補助金のうち、その1割に当たる約3億円の交付を受けている長崎県対馬市。Lush Times 日本版のエディターが海ごみを追って、「国境の島」と呼ばれる対馬へ向かってみると、この海ごみ問題は誰が被害者で誰が加害者なのか、わからなくなってしまった。

【国境の島、対馬】

 対馬は人口約3万人が暮らす長崎県の行政都市である。現在では、沖縄本島と北方四島を除けば、佐渡島、奄美大島に次ぐ面積を持つ島で、2004年に島内の6つの町が合併し、長崎県下では最大の面積を持つ「対馬市」になった。合併当時は4万人以上いた人口は、今では約3,1000人まで減少し、九州地方で最も人口密度が低い市になってしまった。

 九州最北端に位置するこの島は、博多まで航路で132km、韓国の釜山まではわずか49.5km、高速船で約1時間で韓国に行けるという距離にある。古代から人や文化の交流は、対馬を通じて大陸と日本の間で行われており、金属器や石器文化、米づくりや漢字は対馬を通って日本にやって来た。鎌倉時代に元寇の襲撃を受けた対馬は、江戸時代には幕府から朝鮮外交を任され、朝鮮王朝からは江戸幕府に派遣された朝鮮通信使の先導や護衛を任されたという歴史を持つ。歴史的な文化・外交・貿易の拠点であった対馬は、その地理的特徴からも朝鮮半島と日本をつなぐ「国境の島」と呼ばれてきた。

 対馬に生息する動物を見ても、この島の本土とは少し違った風土が見えてくる。サルやタヌキが生息していない代わりに、日本では対馬でしか見ることができないツシマヤマネコが生息する。1971年には国の天然記念物に、1994年には国内希少野生動物種に指定され、現在は推定生息数が約100頭にまで減っているツシマヤマネコは中国や朝鮮半島にも分布する大陸系ヤマネコの亜種とされており、かつてこの島が大陸と陸続きだったことを証明してくれる。

 また、鳥の渡りルート上に位置する対馬では、冬には鹿児島を飛び立ち、シベリアに帰る途中、マナヅルやナベヅルといった大型鳥類が羽を休める姿を観測することができ、秋には朝鮮半島から越冬のため東南アジアに渡るアカハラダカを目にすることができる。「鳥の姿を見ると、鳥には境界が無く、対馬が鳥を介して世界とつながっている」と渡り鳥の観察もしている地元の佐護ヤマネコ稲作研究会は語る。

 この島にいれば、晴れた日には肉眼で釜山の街並みを見ることができ、車を走らせていると韓国語のラジオ放送が入ってくる。朝鮮半島との距離の近さ、そして目と鼻の先にある国境を感じざるを得ない。

 

【対馬と国境なき海ごみ】

 そんな「国境の島」を訪問したのは、昨今世界中で話題の海洋プラスチックごみについて日本の象徴的な場所だと聞いたからである。ツシマヤマネコのことも、渡り鳥の休息地であることも知らなかった筆者にとって、対馬に対して抱いていたイメージは残念ながら「海ごみ」だった。地元の人からしてみたら「山と海しかない」と言う対馬の海に到着した筆者はまず、想像に反して青く透き通る海の色に驚かされた。

 「自然が美しい対馬、と知ってもらいたいが、プラスチックごみで名前が広がるのは、なんというか...」と話すのは対馬市環境政策課の阿比留孝仁さん。余談だが、ちなみに対馬市の中で一番多い苗字はこの「阿比留(あびる)」だという。

 対馬は地理的条件から、とにかく海ごみが多く漂着する場所である。その理由は潮の流れと風だ。東シナ海を北上する黒潮が、九州南部で対馬暖流と交わり、対馬海峡を通って、日本海側に流れ込む。この海流が対馬の沿岸に大量の海ごみを連れてきてしまう。また、朝鮮半島や大陸側から流れてくる海ごみは対馬が堰き止めているから、九州や山陰地方の海岸に漂着する量を低減させているとも言える。もう何年も前からこの漂着する海ごみが対馬の景観を悪化させていることは問題になっているが、拾っても拾っても、海にごみがある限り「潮の流れ」という自然の力がごみを対馬に連れてきてしまう。

 この島で漂着する海ごみの回収が始まったのは、市町村合併前の2001年。回収を始めてみると、海ごみの問題は景観を汚す海ごみだけではないことが分かった。海ごみの回収や処理には膨大なコストやリソースがかかる。また、対馬の海岸線はリアス式でも有名だが、崖が多く、人が足を踏み入れられない場所も多くある。すぐそこに見えているのに、その海ごみを全て回収することは不可能なのだ。

 2009年、海岸漂着物処理推進法が成立した。この法律は、それまで海洋漂着物(海ごみ)は漂着した都道府県が回収したごみの処理をすることに努力義務が課せられていたものを、都道府県が国から補助金を受け、さらに市町村が都道府県からその補助金を受け、集めたごみを処理する責務があると定めている。年間約30億円の予算枠があるこの補助金だが、対馬市(長崎県ではない)だけで交付しているその補助金の総額は、3億円。国の年間予算の1割がこの1つの島に使われている。その予算を使い、2017年には約120トンの廃プラスチック、約255トンの漁網類などを回収している。これだけ高額の補助金が配分されるほど、対馬の漂着ごみ問題が深刻であることを物語っている。

 対馬市の海岸漂着ごみ対策に関わる中間支援組織「一般社団法人 対馬CAPPA」の佐藤光昭さんが案内をしてくれ、実際に対馬の海岸に行ってみたが、想像以上の量の海ごみに遭遇した。まず、漁に使う漁具。かつては綿や麻など自然由来の素材のものが多かったが軽さと安さでプラスチック化が進んだ漁網、アナゴ漁に使う仕掛け、かご、そして浮き。このうち、発泡スチロール製の浮きは特に劣化が早く、すぐに粉々になり、砂浜ならぬ「プラスチック浜」を作る。そこを歩いて驚いた。浜がふかふかしているのだ。以前、市民団体がビーチクリーンアップの際に調べたところ、この「プラスチック浜」の深さは1メートルもあったという。ここまできたら、どうやって元の砂浜を復活させることができるのだろう。別の場所では、ペットボトルや洗剤・整髪剤の空容器、食品のパッケージなどの生活ごみを多く目にした。日本の家庭から出たものがあるかと思えば、ハングルや中国語表記のごみも多い。

 漁師が船からごみを海に捨ててしまうということはまだまだ起こっていると佐藤さんが教えてくれた。海岸には注射器や蓋の閉まった中身がなんだかわからない液体が入ったポリタンクもあり、危ないから開けないように、と注意を受けた。中には、韓国沖で行われている海苔養殖で消毒剤として使われる過酸化水素のボトルまで対馬にたどり着く。海ごみに国境は関係ないのだ。

プラスチックや漁網、流木などの漂着ごみがが対馬では年間約980トン以上回収されている。ちなみにこの数字はあくまで回収できた量だけである。人の手が届かない崖の下や無人島に漂着したごみなど、全てのごみを回収し、計測できているわけではない。回収した海ごみの半分以上は日本語以外のラベルや表記があり、半分以上がプラスチックで、このうちの発泡スチロールの1/3程度を島内にある中部中継所で油にリサイクルできているが、硬質プラスチック類の残り40トンはリサイクル業者に有償で売却する予定だというが、単年契約のため、来年契約が継続しなければ、回収した海ごみは最終処分場で埋立処分するしかなくなってしまう。また、台風が直撃すると山で倒れた樹木や枝も川から海に流され、町中の散乱ごみも、川を通って海に流される。ごみの発生源が誰と特定することは不可能であり、逆を言えば気づかぬうちに、自分たちが捨てたものが(ごみ箱に入れたとしても)海に流れ出てしまっていることがあるかもしれないということだ。そしてそれは巡り巡って対馬の海岸にたどり着くこともあるのだろうか、と考えてしまった。

「国境の島」対馬にたどり着く国境なき海ごみ:後編はこちら

 

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国際問題であるプラスチックごみによる海洋汚染。日本政府も国際社会の一員として世界の動きに追いつくため『海洋プラスチック憲章』へ署名することを求めます。

2018/9/12

#国境なき海ごみ

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