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Vegan Life #1: ヴィーガン × クイアスペース

11月1日は世界ヴィーガンデー。本連載は、NPO法人ベジプロジェクトジャパン代表の川野陽子氏がヴィーガンをライフスタイルの中に取り入れながら生きられている方にお話を伺い、人生の中に加わる深みや面白さを探っていくシリーズ企画です。

 皆さん、初めまして。ベジプロジェクトの川野陽子です。普段は「ベジタリアンの選択肢を創る」というビジョンで、ヴィーガン基準のベジ商品提案や美味しいイベントの開催、ベジマップ制作、ヴィーガン認証等をしています。 そんな私が8月の大雨の日、観光地としても有名な東京の浅草で「Veganカレー」という看板を発見しました。手書きの黒板と町屋風の小さな入り口に惹かれ入ってみると、店内はレトロ感が漂うカウンターが並んでいました。奥には1つだけ机のあるお座敷も。

「こんにちは。今日はお客さん来ないと思って支度していませんでした。カレーでいいですか?」

 ゆるい雰囲気の中で話しかけてもらったことが私と小林さんとの出会いでした。

 前菜とカレーがゆっくり出て来る間、小林さんの独特のテンポと考え方に吸い込まれ、私は随分と長居をしてしまいました。今年の世界ヴィーガンデーに合わせたこの連載の第1回目はそんな小林さんにインタビューをしたいと思い、再度浅草にある小林さんのお店、PQ’sへ足を運びました。

―PQ’sは、「ヴィーガンカレーとクイアスペース」のお店です。この組み合わせのお店を始められたのはどうしてですか?

 自分自身がヴィーガンで、ヴィーガンレストランって東京では高いことが多いので、美味しくて手頃な価格でお料理を出したいという気持ちで始めました。あと、自分が食べることや作ることが好きということも大きいです。カレーはゴールデン街にある銀河系というお店のママに「昼間にカレー屋さんやってみる?」とお誘いいただいたのをきっかけに作り始め、ハーブやスパイスの世界の魅力を知りました。自分がカレー屋になるなんて想像したことも無かったのですが、それからずっと楽しくて続けています。クイアスペースにしたのは、クイアのコミュニティの場所を作りたくて。

―クイアという言葉を耳にしたことはあっても、詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。クイアとはどういう意味があるのでしょうか?

 最近は知られてきたLGBTという言葉ですが、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーのことです。クイアという言葉は様々な使われ方をしていますが、LGBTの様な性的少数者を指すカテゴリと違い、シスヘテロ(出生時に割り当てられた性と本人が認識している性が同じである異性愛者)の男性を基準に作られた婚姻制度や家族制度などの規範そのものに反対する生き方です。自分たちを普通では無いことにしている社会に対し、認めてもらおうとするのではなく、違いを強調することでシスノーマティブ(出生時に割り当てられた性と本人が認識する性が同じであるという認識)や異性愛規範に対して批判的な立場を示す容態という意味で私は使っています。私はクイアでトランス(出生時に割り当てられた性が異なる)男性です。異性愛者、LGBTという言葉を超えて、もっと性は多様であると思います。シスヘテロが普通であるという考え方は、それ意外の人たちの存在を理解されにくくしたり、ないことにされたりしています。そのために辛い思いをしている人や、クイアという概念を知らずに社会規範に同化しようとして息苦しさを感じている人もいます。世の中で「当たり前」とされ正当化されていることに対して疑問を投げかけることは、クイアにもヴィーガニズムにも通じることだと思います。

―そうですね。ヴィーガンという生き方も、動物を食べることが当たり前になっている世の中への問いかけにもなり得ますよね。小林さん自身もヴィーガンですが、そのライフスタイルを選んだ理由を教えてください。

 子どもの頃はお肉が大好きでした。でも、小学生の頃に食べている肉が可愛いブタやウシだということを気付いた時、家族の様に大切にされるペットと家畜として扱われるブタやウシやトリの違いは何だろうと疑問を感じ、食べたく無いと思うようになりました。母に話すと「食べないと栄養失調になって死んじゃうから食べなさい」と言われ、死ぬのは嫌だと思ったので食べ続けました。考えると食べることが辛くなるので考えるのを止めました。

 第二次性徴期の頃になると自分の身体への違和感や社会に対する怒りが強くなり、生きていることが辛くなり、死にたいと思いながらも別の命を奪いながらも生きていることを恥ずかしく思うようになり、また生き物が食卓に並ぶまでの全ての過程がなかった様に扱われていることにも疑問を持ちました。そして、生き物を自分で育て食べてみることに興味を持ち始めた高校生の頃、昆虫食と出会いマダガスカルゴキブリやミルワーム、コウロギや蜂などを育てて食べるようになりました。昆虫は高たんぱくで生産効率も高く、丸ごと全てを食べられるので地球への負荷が小さいという点でも良いです。でも、実際に昆虫を育てているとゴキブリも懐くし慣れてくるし、その命をもらうということに悲しくもなりました。

 そうこうしているうちに23歳の時、お金をためて世界を旅したのですが、特にベルリンではベジタリアンやヴィーガンの選択肢が多く、ヴィーガンでも健康的な方やがたいの良い方にもたくさん会いました。その時、肉を食べなくても生きていけることに気がつき、徐々にヴィーガンへと移行しました。帰国後に今のパートナーでPQ’s共同オーナーでもあるリリーと出会い、一緒にヴィーガンとして生きています。ヴィーガンであると体調もいいし気持ちも良いです。無理なく続けられることの結果が私にとってはヴィーガンでした。

 

―色々経験してみて考えた先にヴィーガンの生き方があったのですね。小林さんの中にある命への優しさを感じました。さて、ヴィーガンカレーのお店をされていますが、カレーが可愛いと評判です。カレー作りへのこだわりはありますか?

 ビジュアルでまずヴィーガンという食に興味をもってもらえたら良いなと考えています。ヴィーガンというと素朴なイメージが先行してしまいますが、私のカレーを通して楽しくてポジティブなイメージを発信できたら嬉しいです。

 また、この店のメニューは毎日変わります。季節の野菜を使って、素材を活かしながらどんなカレーにしようか考えていると、インスピレーションは自然と沸いてきます。毎日違うメニューなのは、同じものを同じ様に市場に出すことには無理があるからです。食材には季節もあるし、日によっても変わります。フードロスも出したくない。八百屋さんと仲良くなって教えてもらいながら新鮮で旬のものを安く仕入れて、美味しいものを手頃な価格で提供するようにしています。あとは、自分自身が飽きるから毎日違うものを作って楽しんでいます(笑)。毎日自分もリリーもここで食べていますよ。大切な人に食べてもらいたいものを出しているので、添加物等にも気を使い、食べてくれる人の健康に良いものを心掛けています。皮ごと使う野菜等はなるべく無農薬を、お米は無農薬の玄米を使っています。

 

―美味しくて可愛い小林さんのカレーは毎回見ても食べてもハッピーになります!さらにレトロな雰囲気の店内も素敵ですよね。

 これ、ほとんど手作りです。拾ったり貰ったりしたもので、リリーと一緒に作りました。レトロ風にしたかったわけでもなく、古いものを利用していたら結果こんな雰囲気になりました(笑)。使えるのに捨てられているものってたくさんありますよね。使えるものは使う方が良いと思っています。

―私もそう思います。資源に限りがあって大事にしないといけないことをみんな知っているはずなのに、できていないことばかり。でも、実はできることって身近にあるのかもしれませんね。この手作りの素敵な空間が、クイアスペースと掲げられているようにクイアの人が集えたり、ヴィーガンの人も食事を楽しめる場所になっていたりするんですね。

 そうですね、そういう場所にしていきたいです。クイアやヴィーガンの人もそうでない人も集まってお互いのことを知るきっかけになる場所になればと思っています。様々な運動間で分断があると感じるのですが、それぞれの活動をしている人達が共通の基盤に気がついて、連帯出来ると良いなと思います。お店に来てくれるお客さんの半数以上はヴィーガンではありません。ヴィーガンでは無いお客さんからは「肉を使っていなくても美味しいね」とか「地味な味がすると思っていた」とか「ちゃんと辛いんですね」とか(笑)。いろんな声を頂きます。おじさんも純粋に「カワイイ!」と言いながらカレーの写真を撮ったり楽しんだりしています。「女子ウケしそう」とコメントされることが多いのですが、可愛い=女子と連想することに対しても違和感をもちます。おじさんだって可愛いものを楽しんでいいし、可愛くても良いと思います。私も男性として扱われるようになってから、男性規範に対しての息苦しさについても考えるようになりました。昔、女性として働いていた飲食店では、女子だからとケーキ作りに選ばれたり、料理を勉強するのは花嫁修業のためと言われたり、「女性だからこう」という世の中にある思い込みに嫌な思いをしました。男性や女性に押し付けられている規範について考えることで全ての人が的外れな規範から自由になることがフェミニズムだと思います。フェミニズムによって自由になるのは、女性だけではありません。

―そのおじさんも自分が可愛いものに心躍ることに気が付けると良いですね!世界は広くて複雑で、奇跡的だから、男性か女性かだけで語り切れないことが沢山あると私も思っています。小林さんはヴィーガンやクイアの立場から、どんな社会を望みますか?

 クイアやフェミニストの人でも動物の権利に関心の無い人はいますし、人権の問題に対して興味を持っていないヴィーガンの人もいます。でも、これらの問題はすべて繋がっていると思います。人権について考える様に動物の権利についても考えることで、動物の権利が守られさらに食肉が減れば地球環境や食料問題は改善されます。食料問題の被害に真っ先に会うのは貧しい国の子供や周縁化された人々です。社会の規範やシステムの中で苦しむ人達が権利を得れば、動物の権利について考える余裕が出来る人も増えると思います。これらの活動はどちらかを先に解決するべき問題ではなく、並行して取り組まなければならない課題だと考えています。そして私達一人ひとりが毎日の消費や選択についてその都度考えることが大切だと思います。性別や階級の問題、地球環境の問題、動物に対して起こっている問題、いろんな問題がある中で、それぞれが特権や繋がりを意識して、連帯していけたら良いと思います。

 

―最後に、小林さん自身の夢やお店のこれからを教えてください。

 お店をスタートしたところなので、パートナーと一緒にまずきちんと自分たちの生活を成り立たせないといけないですね。でも将来的には、活動に共感してくれた人が働ける場所やクイアやヴィーガンの人たちが安心して過ごせる場所を広げていければ良いなと思います。サポートしたい人や活動がたくさんあるので、自分たちのできる範囲ですが力になれたらと思っています。

 

<取材後記>
 私にとってクイアやフェミニズムは、耳にしたことはあっても深く考えたことがありませんでした。でも、小林さんとお話しをして、知って考えさせられることがたくさんありました。自分自身がマジョリティ(今回の場合はヘテロシスという立場)にいることで、問題に対して立ち止まっていなかったことにも気が付きました。小林さんの人柄もあり、全く押しつけがましくなく時には楽しく社会の大事な問題に目を向けられたように感じます。性別、人種、動物の種類、それぞれの中で区別があることで力関係が生まれ、結果虐げられる側ができてしまうという構造がどれも同じように感じました。その構造から一歩出てみると見え方も考え方も変わるように思います。小林さんとリリーさんで作り上げてきたこのお店が、これから色んな立場の人が集まるコミュニテイとして発展していくことをとても楽しみにしています!

川野陽子

<プロフィール:小林世治>
1991年生まれ。ヴィーガンカフェ兼クイアスペース、PQ'sの共同オーナー。2017年カレー作りを「銀河系」で始める。2018年8月 PQ’sをオープン。
PQ’s Webサイト PQ’s Instagram

Photo credit: 小林世治 & Cédric Rolando

【Vegan Life連載 全4回はこちら】
Vegan Life #1: ヴィーガン × クイアスペース
Vegan Life #2: ヴィーガン x ライフスタイルクリエイター 
Vegan Life #3: ヴィーガン x 写真家
Vegan Life #4: ヴィーガン x 映像クリエイティブ

11/1/2018

 

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